Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
決別
カノープスが紫微垣の候補生になった翌朝のこと――彼は相変わらず早起きして家族の朝食を作り、八穀に出勤した。朝食をさっと作った後、朝の修行をして、他の3人の候補生と一緒に朝食を食べる。昼食前は少し早めに修行を切り上げ、昼食の支度をする。夕食も同じだ。その分、夕食後の自主練をしているのだ。
家族のケアと紫微垣の修行――自分で選んだとはいえ、この両立は困難を極めた。それでも嫌ではなかったのは、希望を見出したからだ。紫微垣になれば暮らしも楽になる――それだけではない。このまま家族のケアだけで人生が終わると思っていた自分に、使命があるかもしれないと思った。そう思うと、時間のやりくりもハードな仕事や修行も苦ではなかったのだ。
そんな折、ついにカノープスは母親と決別する時を迎えた。いつものように修行を終えて帰ってくると、マルケブがアルセフィナをひっぱたこうとしていたのだ。
この時間は外をほっつき歩いているはずなのに珍しい……と思うより先に体が動いた。妹を守らなければ!
カノープスは妹の前に立ち、七星剣をかざしてマルケブの手を受け止めた。
「…何やってるんだよ、母さん」
「カノープス、どいて! こいつは口答えしたのよ、『お金なんて出せない』って!」
マルケブは激しくアルセフィナを非難する。聞くと、どうやら所持金がないため、アルセフィナの持っている金を巻き上げようとしたのだ。その金は、カノープスが働いて稼いだもので、「好きな菓子でも買え」と渡したものだ。カノープスの目が怒りの眼光に変わった。
「いい加減にしろよ!」
カノープスは母親に怒鳴りつけた。マルケブがビクッと身をすくめる。
「あんたどれだけ身勝手なんだ!? もういい、出て行ってくれ!!」
マルケブは呆然とした。出て行け……? 母親の私に……?
「…母さんは東の都に来てからも変わらなかった。他のみんなが優しくしてくれて、俺も安定した収入ができれば前のようになってくれると思っていたのに…」
「ち、違うのよ、カノープス…」
「何がどう違うんだよ。あんたは俺たちを子供じゃなくて金づるか奴隷と思っているんだろ? そんな人と一緒に暮らせるか!」
「カノープス…」
カノープスは七星剣を構え、マルケブに向けて三の秘剣・三連突きを繰り出した。切っ先がマルケブの横にある壁に突き刺さる。
「出て行けよ。さもなくば、アルセフィナを守るため、俺はこの剣をあんたに突き刺すぜ」
目が一段と鋭くなっている。本気だった。生んでくれた恩はあるが、大事なのは今だ。このままでは自分も妹も危険である。
「わ、分かったわよ……」
マルケブはしぶしぶ出て行った。
次の日。カノープスはフォマルハウトの部屋に呼び出された。フォマルハウトは微笑んでいるが、若干顔をしかめている。カノープスはというと、ぶすっとふてくされた表情だ。
「七星剣を使ったそうだな」
「はい…」
「最初に言っておく。私情や我欲で振るうことは許されない。心に隙ができるからな。私闘など言語道断だ」
紫微垣の七星剣は、ポラリスや民を守るために使われるものだ。個人的な怒りや欲望で使われたら、どんな災厄につながるか分かったものではない。
「まあ、今回は妹さんを守るという大義名分があったから不問とする。以後、気をつけるように」
「分かりました…」
師の前を退出して修行道場に行くとミアプラがいた。
「はっ、感情に任せて剣を振るうなんて、ばっかねえ」
カノープスの失態を笑いに来たのだろう。
「お前の相手をしている暇はない」
「あらあら、これでも紫微垣を目指す同志よ? そんな言い方、冷たいんじゃない?」
反抗している父親と重ねているのか、ミアプラは男性への態度が辛辣である。そこにアヴィオールがやってきた。
「ミアプラ、ここにいたの」
「どうしたのよ?」
「ガクルックスとアクルックスの父親が来て、フォマルハウトともめているんだ」
3人で師匠の部屋に行ってみた。すると、すさまじい怒鳴り声が響いてきた。
「あんなできそこないども、そちらで引き取ってください! 天牢庵で何かしらできるでしょうが!」
すらっとした男性で、眼光が鋭い。あの2人の父親と察しがついた。
「落ち着いてください、お父さん。彼らは紫微垣の試練で、候補生として不合格だったのです。このままここにいては、彼らのためにも良くない」
「しかし、私は紫微垣になるか、この天牢庵で役に立たせるために育ててきたのです!」
カノープスはぴくっと目を細めた。紫微垣にするために育てた?
「お気持ちはありがたく頂戴します。しかし、あなたにそうやって育てられたとしても、あの双子にはそれぞれの人生がある。紫微垣にならなくても、自分の使命を見つけて素晴らしい人生を送ることはできるのです」
しかもまだ15歳、可能性は無限に広がっている。そこまで言っても、父親は
「やれやれ、分かりました。しかし私は引き取りません。天牢庵から追い出したければ追い出せばいい」
と、帰ってしまった。
それを聞いたガクルックスとアクルックスは
「そうですか、父親が…」と、顔をゆがめながら自室に帰っていった。その3週間後……双子は天牢庵を出て行ったのだ。
家族のケアと紫微垣の修行――自分で選んだとはいえ、この両立は困難を極めた。それでも嫌ではなかったのは、希望を見出したからだ。紫微垣になれば暮らしも楽になる――それだけではない。このまま家族のケアだけで人生が終わると思っていた自分に、使命があるかもしれないと思った。そう思うと、時間のやりくりもハードな仕事や修行も苦ではなかったのだ。
そんな折、ついにカノープスは母親と決別する時を迎えた。いつものように修行を終えて帰ってくると、マルケブがアルセフィナをひっぱたこうとしていたのだ。
この時間は外をほっつき歩いているはずなのに珍しい……と思うより先に体が動いた。妹を守らなければ!
カノープスは妹の前に立ち、七星剣をかざしてマルケブの手を受け止めた。
「…何やってるんだよ、母さん」
「カノープス、どいて! こいつは口答えしたのよ、『お金なんて出せない』って!」
マルケブは激しくアルセフィナを非難する。聞くと、どうやら所持金がないため、アルセフィナの持っている金を巻き上げようとしたのだ。その金は、カノープスが働いて稼いだもので、「好きな菓子でも買え」と渡したものだ。カノープスの目が怒りの眼光に変わった。
「いい加減にしろよ!」
カノープスは母親に怒鳴りつけた。マルケブがビクッと身をすくめる。
「あんたどれだけ身勝手なんだ!? もういい、出て行ってくれ!!」
マルケブは呆然とした。出て行け……? 母親の私に……?
「…母さんは東の都に来てからも変わらなかった。他のみんなが優しくしてくれて、俺も安定した収入ができれば前のようになってくれると思っていたのに…」
「ち、違うのよ、カノープス…」
「何がどう違うんだよ。あんたは俺たちを子供じゃなくて金づるか奴隷と思っているんだろ? そんな人と一緒に暮らせるか!」
「カノープス…」
カノープスは七星剣を構え、マルケブに向けて三の秘剣・三連突きを繰り出した。切っ先がマルケブの横にある壁に突き刺さる。
「出て行けよ。さもなくば、アルセフィナを守るため、俺はこの剣をあんたに突き刺すぜ」
目が一段と鋭くなっている。本気だった。生んでくれた恩はあるが、大事なのは今だ。このままでは自分も妹も危険である。
「わ、分かったわよ……」
マルケブはしぶしぶ出て行った。
次の日。カノープスはフォマルハウトの部屋に呼び出された。フォマルハウトは微笑んでいるが、若干顔をしかめている。カノープスはというと、ぶすっとふてくされた表情だ。
「七星剣を使ったそうだな」
「はい…」
「最初に言っておく。私情や我欲で振るうことは許されない。心に隙ができるからな。私闘など言語道断だ」
紫微垣の七星剣は、ポラリスや民を守るために使われるものだ。個人的な怒りや欲望で使われたら、どんな災厄につながるか分かったものではない。
「まあ、今回は妹さんを守るという大義名分があったから不問とする。以後、気をつけるように」
「分かりました…」
師の前を退出して修行道場に行くとミアプラがいた。
「はっ、感情に任せて剣を振るうなんて、ばっかねえ」
カノープスの失態を笑いに来たのだろう。
「お前の相手をしている暇はない」
「あらあら、これでも紫微垣を目指す同志よ? そんな言い方、冷たいんじゃない?」
反抗している父親と重ねているのか、ミアプラは男性への態度が辛辣である。そこにアヴィオールがやってきた。
「ミアプラ、ここにいたの」
「どうしたのよ?」
「ガクルックスとアクルックスの父親が来て、フォマルハウトともめているんだ」
3人で師匠の部屋に行ってみた。すると、すさまじい怒鳴り声が響いてきた。
「あんなできそこないども、そちらで引き取ってください! 天牢庵で何かしらできるでしょうが!」
すらっとした男性で、眼光が鋭い。あの2人の父親と察しがついた。
「落ち着いてください、お父さん。彼らは紫微垣の試練で、候補生として不合格だったのです。このままここにいては、彼らのためにも良くない」
「しかし、私は紫微垣になるか、この天牢庵で役に立たせるために育ててきたのです!」
カノープスはぴくっと目を細めた。紫微垣にするために育てた?
「お気持ちはありがたく頂戴します。しかし、あなたにそうやって育てられたとしても、あの双子にはそれぞれの人生がある。紫微垣にならなくても、自分の使命を見つけて素晴らしい人生を送ることはできるのです」
しかもまだ15歳、可能性は無限に広がっている。そこまで言っても、父親は
「やれやれ、分かりました。しかし私は引き取りません。天牢庵から追い出したければ追い出せばいい」
と、帰ってしまった。
それを聞いたガクルックスとアクルックスは
「そうですか、父親が…」と、顔をゆがめながら自室に帰っていった。その3週間後……双子は天牢庵を出て行ったのだ。