Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

魔剣との邂逅②

 その後、似たような事件が数度発生した。いずれも地面におびただしい血が撒かれているのに遺体がほとんどない。犯行は主に深夜に行われているようだが、夕方頃に悲鳴があり、警備兵が現場に行ってみると凄惨なことになっている…そんなこともあった。
 犯人の手がかりがないまま日にちだけが過ぎたが、事態が急展開することになる――。

「囮作戦?」
 カペラが不安そうに夫のフォマルハウトに尋ねる。彼が発案したのだ。
「ああ、深夜に僕が町中を徘徊して犯人をおびき寄せる。それを迎撃するんだ」
「そんな作戦、通用するのか?」
 ルクバトが懐疑的だ。単純過ぎる作戦だから、相手も簡単に引っ掛かるか甚だ疑問なのだ。しかし、フォマルハウト曰く、怪奇事件の影響で今、東の都では深夜の往来がほとんどない。そこに1人、ぬけぬけと徘徊している者がいれば、必ず襲撃してくるはずだ。
「マントを羽織って怯えたように歩けば、まさか紫微垣とは思われないだろう」
 ということで、その日の夜に決行した。
 その日は新月でちょうど月明かりがなかった。闇討ちするには絶好の夜である。
 フォマルハウトは作戦通り、マントを羽織って少し自信なさげに歩くようにした。その様子を、かなり離れた場所から他の面々が見守っている。何となく挙動不審なのは、動きにくいからだろうか?
「本当にあれで大丈夫かしら?」とカペラ。
「俺だったら、あれを見つけたら職質するぜ。今のあいつの方が不審者だよ」と笑いをこらえるルクバト。
 他の少年少女は黙っているが、意見はおおよそ同じである。さて――
 しばらく歩くと、前にマントを羽織った人影が現れた。影は二つ――もしかして犯人だろうか? 新月のためか、大通りでも堂々としている。
 そのうちの1人が突然、フォマルハウトに向かって突進してきた。その手には、かなり太い剣が握られている。
「何だ、ありゃ!?」
 ルクバトが叫ぶと同時に、ガキインという音が闇夜に木霊した。フォマルハウトが七星剣を構え、その剣と切り結んだのだ。しかし――一見しただけで恐ろしい得物と分かった。刀身は黒々と怪しい光を放ち、拵えは骨や髑髏をあしらっていて禍々しい。まるで、この世の呪いを全て集めたような――。
「しっ、七星剣!?」
 黒い剣の使い手は声を発した。え? 何で七星剣を知っている? それに、聞き覚えのある声だ…。
「正体を見せろ!!」
 フォマルハウトはマントを脱ぎ払い、相手のマントも二の秘剣・螺旋昴で剥ぎ取った。そこにいたのは……。
「ガクルックス!?」
 間違いない――かつて一緒に修行をした紫微垣の候補生・ガクルックスだ。では、その後ろにいるのは…。
「お前はアクルックスか!? 一体どういうことだ!?」
 フォマルハウトが叫ぶと、ガクルックスは黒い剣を旋回させて再び斬りかかってきた。
「ぐっ!」
 剣戟がとてつもなく重い。自分が知っている弟子とは思えない力である。こんな短期間にここまで腕力が!?
「ちっ!」
 フォマルハウトはその斬撃を斬り払い、バッと後ろに飛び下がった。ふと七星剣を見ると、金属の部分にひびが入っている。
「何なんだ、あの剣……」
「父さん、気をつけて。あの2人、今までと雰囲気が違うよ」
 アヴィオールが言った。確かに、紫微垣の候補生だった頃と雰囲気が違う。何か、禍々しいもの――瘴気をまとっているようだ。
「うわああ!!」
 突然、大通りの端から叫び声がした。路上生活の中年の男性がふらっと出てきてしまったのだ。
「そこの人、逃げて!!」
 カペラが叫ぶより早く、ガクルックスがその男性に向かって跳躍した。かと思うと同時に、黒い剣が男性を脳天から真っ二つに切り裂いたのだ。
「きゃああ!」
「うわあっ!!」
 ミアプラとアヴィオールが叫ぶ。彼らは目の前で殺人の場面を見るのは初めてであった。が、ガクルックスは切り裂いた遺体を前に、黒い剣をかざした。するとどうであろう――その遺体が黒い剣にズズッと引き寄せられ、瞬きをする間に吸い込まれたのだ。
「え!?」
 さらに、驚いている面々に向かって、ガクルックスが再度攻撃を仕掛けてきた。フォマルハウトが七星剣で弾くが――。
「!!」
 先ほどよりも剣戟が強い。まさか、遺体を吸収してパワーアップしたのか!? それに合わせるようにガクルックスの動きも速くなってきた。
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