Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
過去の真相
夕食後は順番で風呂に入り、就寝することに。しかし――。
(眠れん…)
カノープスはがばっと身を起こした。時刻はおそらく深夜の1時頃だろう。男子の区画では隣でアヴィオールがのんきに寝息を立てている。女子の区画ではどうだろう? 2人とも寝ているのか? 立ち上がってちらっと見たら、いたのはアルセフィナだけだった。
(カペラさんは?)
廊下に出てトイレに行き、その先のバルコニーに人影があった。寝間着姿のカペラがいたのだ。月明かりに照らされた姿は妖艶さを醸し出している。
「カペラさん?」
「あら、カノープス。起きちゃったの」
まるで子供に言うような口調だ。何となくその隣に並び、一緒に月を眺める。
「このところ、いろんなことがあったわね」
「そうっすね」
天牢庵の賄い係で働き始めたのに、突然紫微垣の候補生になった。さらに、脱落した候補生の二人が怪しい剣と母・マルケブと一緒にいる。師匠のフォマルハウトも殺されてしまった。一体、何でこんな急展開になっているのだ。
「それにしてもあなた、本当に肝が据わっているわね。ミアプラやアヴィと同じ年代とは思えないわ。あの子たちはまだまだ子供っぽくてね」
でも、あなたももう少し愛想があるとかわいいし、女の子にもモテるわよとも言われたが、
「生き抜く力を持つだけで精一杯っすよ。妹もいるし。それに、金のないヤツはモテないでしょ」
と無愛想に答えた。10代半ばとは思えないほどのリアリストだ。カペラは苦笑いしながら、話題を変える。
「…ねえ、カノープス。最近のミアプラ、どう思う?」
「は?」
何で俺にそんなこと聞くんだ?
「あの子、思春期を迎えているし、不安定になるのは分かるわ。でも、それだけじゃない気がするの。あなた、何か知らない?」
「いや、俺あいつと仲悪いですから」
と突っぱねるものの、何となく引っかかる。記憶をたどり、「そういえば」とつぶやいた。
「師匠と前の母親のことで何か考えていたかもしれません」
「え?」
「俺、八穀で働いているから、天牢庵から城に食材をもらいに行くことがあって。そこで時々噂を聞いていたんです。“フォマルハウトは前の妻を裏切った”って。俺にはどういうわけか分からなくてほっといたんすけど…」
それを聞き、カペラは目をふせ、口を手で押さえた。
「え? ええ?」
「ごめんなさい…きっと原因は私なのよ」
カペラは小さい声で、フォマルハウトとの関係を語り始めた。
同じ頃――離れの寝床で裸になっていたミアプラは起き上がった。隣で、同じく裸のミモザが寝ている。ミアプラは、彼の頬を優しくなでて口づけした。父のフォマルハウトに本当のことを聞く前に死なれ、心のモヤモヤが宙ぶらりんになっているような状態だ。
七星剣を持って部屋を出て、廊下を歩く。月明かりがきれいだった。
(ん? 声がする)
ミアプラは忍び足で歩く。声は2階から聞こえてきた。
(母さんと…カノープス?)
ミアプラは息を殺して壁に寄りかかりながら廊下に座る。耳に意識を集中して話を聞き始めた。
「どういうことですか? 原因は私って」
「私ね、フォマルハウトが前の奥さんと結婚している時に、ここに2人きりで出張してきたの」
「え? 2人きりで?」
ミアプラは「はっ」と小さく声を漏らしたが、カノープスの声でかき消されたようだ。
カペラは続ける。既婚者だった彼と出会った時から気になっていた。一緒に出張に来た他の警備兵は海に飲まれて、2人きりとなったの。で、一緒にいたからいろいろアプローチしたけど…彼は家族がいるからって、断られたの。でも、気持ちは通じていた……。
ミアプラは寝間着の胸の部分をぎゅっと握る。
「ところがね、彼が出張から帰ったら、1歳になった頃のミアプラは家で放置されていて、シャウラ――前の奥さんはいなくなっていた」
ミアプラは頭が真っ白になった――私、生みの母親に捨てられたってこと?
カペラは続けた。その後、シャウラは赤星党のテロに加わり、フォマルハウトと完全に対立したの。私や彼、それに警備兵団長のルクバトは赤星党を鎮圧するために戦った。そして――最後は党首のアンタレスも死んで、シャウラは劇薬で怪物になった後、肉体が崩壊した。ちなみに、アンタレスとシャウラは愛人関係にあって、最期を共にした形ね。
「…そんなことが…」
カノープスさえ息をのんだ。まさか、そこまでの愛憎劇があったとは。ということは、最初に裏切ったのはフォマルハウトではなくシャウラの方ではないのか? しかし、城の噂はなぜか、「フォマルハウトがシャウラを裏切った」となっていた。
「きっと、事件の1年後に私と再婚したからよ。あまりにも早すぎて、実はずっと前から不倫関係にあったんじゃないかって噂されていたかも」
カペラは頭を押さえた。微妙なところだが、ぎりぎり不倫ではない気もするが……。
と、その時、階下でダッという音がした。誰だ!?
(眠れん…)
カノープスはがばっと身を起こした。時刻はおそらく深夜の1時頃だろう。男子の区画では隣でアヴィオールがのんきに寝息を立てている。女子の区画ではどうだろう? 2人とも寝ているのか? 立ち上がってちらっと見たら、いたのはアルセフィナだけだった。
(カペラさんは?)
廊下に出てトイレに行き、その先のバルコニーに人影があった。寝間着姿のカペラがいたのだ。月明かりに照らされた姿は妖艶さを醸し出している。
「カペラさん?」
「あら、カノープス。起きちゃったの」
まるで子供に言うような口調だ。何となくその隣に並び、一緒に月を眺める。
「このところ、いろんなことがあったわね」
「そうっすね」
天牢庵の賄い係で働き始めたのに、突然紫微垣の候補生になった。さらに、脱落した候補生の二人が怪しい剣と母・マルケブと一緒にいる。師匠のフォマルハウトも殺されてしまった。一体、何でこんな急展開になっているのだ。
「それにしてもあなた、本当に肝が据わっているわね。ミアプラやアヴィと同じ年代とは思えないわ。あの子たちはまだまだ子供っぽくてね」
でも、あなたももう少し愛想があるとかわいいし、女の子にもモテるわよとも言われたが、
「生き抜く力を持つだけで精一杯っすよ。妹もいるし。それに、金のないヤツはモテないでしょ」
と無愛想に答えた。10代半ばとは思えないほどのリアリストだ。カペラは苦笑いしながら、話題を変える。
「…ねえ、カノープス。最近のミアプラ、どう思う?」
「は?」
何で俺にそんなこと聞くんだ?
「あの子、思春期を迎えているし、不安定になるのは分かるわ。でも、それだけじゃない気がするの。あなた、何か知らない?」
「いや、俺あいつと仲悪いですから」
と突っぱねるものの、何となく引っかかる。記憶をたどり、「そういえば」とつぶやいた。
「師匠と前の母親のことで何か考えていたかもしれません」
「え?」
「俺、八穀で働いているから、天牢庵から城に食材をもらいに行くことがあって。そこで時々噂を聞いていたんです。“フォマルハウトは前の妻を裏切った”って。俺にはどういうわけか分からなくてほっといたんすけど…」
それを聞き、カペラは目をふせ、口を手で押さえた。
「え? ええ?」
「ごめんなさい…きっと原因は私なのよ」
カペラは小さい声で、フォマルハウトとの関係を語り始めた。
同じ頃――離れの寝床で裸になっていたミアプラは起き上がった。隣で、同じく裸のミモザが寝ている。ミアプラは、彼の頬を優しくなでて口づけした。父のフォマルハウトに本当のことを聞く前に死なれ、心のモヤモヤが宙ぶらりんになっているような状態だ。
七星剣を持って部屋を出て、廊下を歩く。月明かりがきれいだった。
(ん? 声がする)
ミアプラは忍び足で歩く。声は2階から聞こえてきた。
(母さんと…カノープス?)
ミアプラは息を殺して壁に寄りかかりながら廊下に座る。耳に意識を集中して話を聞き始めた。
「どういうことですか? 原因は私って」
「私ね、フォマルハウトが前の奥さんと結婚している時に、ここに2人きりで出張してきたの」
「え? 2人きりで?」
ミアプラは「はっ」と小さく声を漏らしたが、カノープスの声でかき消されたようだ。
カペラは続ける。既婚者だった彼と出会った時から気になっていた。一緒に出張に来た他の警備兵は海に飲まれて、2人きりとなったの。で、一緒にいたからいろいろアプローチしたけど…彼は家族がいるからって、断られたの。でも、気持ちは通じていた……。
ミアプラは寝間着の胸の部分をぎゅっと握る。
「ところがね、彼が出張から帰ったら、1歳になった頃のミアプラは家で放置されていて、シャウラ――前の奥さんはいなくなっていた」
ミアプラは頭が真っ白になった――私、生みの母親に捨てられたってこと?
カペラは続けた。その後、シャウラは赤星党のテロに加わり、フォマルハウトと完全に対立したの。私や彼、それに警備兵団長のルクバトは赤星党を鎮圧するために戦った。そして――最後は党首のアンタレスも死んで、シャウラは劇薬で怪物になった後、肉体が崩壊した。ちなみに、アンタレスとシャウラは愛人関係にあって、最期を共にした形ね。
「…そんなことが…」
カノープスさえ息をのんだ。まさか、そこまでの愛憎劇があったとは。ということは、最初に裏切ったのはフォマルハウトではなくシャウラの方ではないのか? しかし、城の噂はなぜか、「フォマルハウトがシャウラを裏切った」となっていた。
「きっと、事件の1年後に私と再婚したからよ。あまりにも早すぎて、実はずっと前から不倫関係にあったんじゃないかって噂されていたかも」
カペラは頭を押さえた。微妙なところだが、ぎりぎり不倫ではない気もするが……。
と、その時、階下でダッという音がした。誰だ!?