Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

五行の魔人①

 一体、何があったというのだ? 双子の遺体を前に、一行は呆然とした。それに、ガクルックスが持っていたはずのコラプサーがない。
「あら、皆さんおそろいで」
 岩の上からの声――マルケブだった。手にはあの魔剣を握っている。
「おふくろ!!」
 カノープスは七星剣を構える。一体、何がどうなっているんだ!?
「その双子の坊やはね、あんたたちに追い出された後、私と一緒になったのよ。私が生活を保障して、あの子たちは私の魔剣を養うために人の死骸を回収する――そんな利害関係が一致して手を組んだの。もっとも、お互いに体を提供し合ったりもしたけど」
 淡々と語るマルケブを前に、カノープスは目をつり上げた。
「一体、何を企んでいるんだ!?」
「企むなんて人聞きの悪い…カノープス、あんたに追い出された私は途方に暮れて、言い寄ってくる男たちに抱かれてお金とお酒をせびったの。そんな時、この子たちと合ってね。それで、一緒に西の村に来てもらったのよ」
 西の村――都のように法の支配が届かない無法地帯だ。いつの間にそんな所に……。
「でも、女1人と子供2人じゃ、危なかしくってね。野党崩れの男たちが金品を狙いにやってきた。そんな時、村唯一の祠にコラプサーがあって、私が引き抜いたのよ。それから、近寄ってくる敵や邪魔なヤツを全て切り捨てていったわ。剣術の心得がない私でも、人間を紙切れのように斬れるからおもしろかった」
 一行はごくりとつばを飲み込んだ。
「でも、このコラプサーには欠点があってね。定期的に人間の死体を吸収しないといけないの。でなければ、剣が1人でに動いて近くの人間を斬るようになっている。だから、コラプサーに頼んで、この双子にも使えるようにさせたのよ。まあ、あんたたちと戦って負けることまでは考えていなかったけど」
 そう言うとマルケブは岩から飛び降り、剣をかざした。双子の遺体が振動し、魔剣に吸い取られたのだ。
「ガクルックス、アクルックス!」
 アヴィオールの叫びもむなしく、遺体は跡形もなく消えた。
「さてと、用済みの遺体を片付けたから、今度はあんたたちを始末しないとね…」
 マルケブは2本の金属の棒を取り出した。
「七星剣!?」
「そ、あの双子ちゃんのよ。変色しなかったからナマクラだけど、意外な使い道を思いついたのよ」
 マルケブは2本の七星剣を放り上げると、コラプサーでバキイン、と砕いた。星金や星鏡の破片が飛び散り、砂の上に落ちた。
「ひい、ふう、みい…うん、10個はあるわね」
 マルケブは無傷の星鏡を10個取り上げ、コラプサーを構える。
「天地を支配する五行の力よ、魔剣の呪いを受けなさい」
 するとコラプサーから黒い光が放たれ、星鏡に吸い込まれた。その星鏡は二つ1組で宙に浮くと、物体化し始めたのだ。
「何だ!?」
 一行が固唾をのんでいるうちに、5人の人影が現れた――。1人目は大男で肌が赤く、その肌から火が立ち上っている。2人目は裸の女性で、水のように透き通った体をしている。3人目はトカゲを人の型にしたような獣人タイプで、体につたが巻き付いている。4人目は全身を銀色と金色の鎧のようなもので覆った者で、額から頭頂部にかけて伸びた角が特徴だ。5人目は巨大な四足獣に鬼瓦のような顔をしていて、全身に岩をはめている。
「紫微垣の候補生なら五行説って聞いたことあるでしょ? 天地全ての要素と言われているわ。その五行をね、星鏡を媒介にして、コラプサーの魔力で魔人に具現化したのよ」
 不適に笑うマルケブは、魔人の1人である水のタイプに目配せした。その魔人はシャッという音とともに姿を消し去り、突然一行の前に現れた。
「!!」
 が、その魔人はすぐに消えてしまった。え、何なんだ――と思ったら、またマルケブのもとに戻っていた。その腕には――。
「アルセフィナ!!」
 敵のもとに最愛の妹が渡っている。しまった、最初からこれが狙いだったか!!
「おふくろ! 何をするつもりだ!!」
 するとマルケブは妖艶な笑みを浮かべた。
「カノープス、ゲームをしようか。あんたたちは私たちを倒し、この子を助ける。私たちはあんたたちを全滅させる。私たちが勝ったらこの小娘の体をならず者たちに差し出し、最後は首を切ってさらしてやるわ」
 何言っている、自分の娘だぞ!? もはや正気じゃない。
「じゃあ、西の村で待っているから。がんばりなさい」
 そういうと敵の面々は消えてしまった。ただ1人、火の魔人を残して……。
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