Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

帰還

 記憶が正しければ、師は60代のはずである。今、成人男性並みの体重のシリウスを抱えてすさまじいスピードで走っている。おいおい、年齢を詐称していないか?
「年をとってこんな真似はようせん。せいぜい5分が限界じゃ」
 しかしその5分で北の町を駆け抜け、あっという間に武曲の祠にたどり着いた。師の底力に舌を巻きつつも、来る途中で高台に避難していた人々を見た。ミラの母親は無事だろうか? 孤児院のみんなは? スピカの家族は元々家が高台にあったから大丈夫と思うが……。
「よっこらせっと……」
 アルクトゥルスはシリウスをおろし、その場に寝転ぶ。
「ちょ、師匠!」
「あーシリウス、わしはもう動けん。ここからはお前1人で行け」
 緊迫した状況に似つかわしくない間抜けな口調である。
「で、でも俺、足を折って……」
「わし、もう無理」
 大の字になって寝息を立て始めた。このじいさんは使命感があるのかないのか……。
「あーもう!!」
 シリウスは痛い足を引きずって山道を駆け上がった。
痛みがどんどん増してきている。尋常じゃない痛みである。さらには大きめの余震が起こった。道の両脇にあった岩が倒れてくる。
「二の秘剣・螺旋昴!!」
 シリウスは七星剣を螺旋状に上に放ち、岩を粉砕する。さらに走って、やがて岬に出た。そこには小さな祠が――。
「やっと着いた……」
 その祠――北辰の祠には、玉のない台座があるだけだ。シリウスは足を引きずり、ポラリスをその台座に置いた。すると、

 ゴウンッ

 という音が星の大地じゅうに響き渡った。岬から町を見下ろすと、津波が引いていくのが見える。
「やった、成功した……」
 呆然としながら、シリウスは奉納されたポラリスを見た。
 思えばここから始まったのだ。ベテルギウス、リゲルと盗みを画策し、アルクトゥルスに捕まって鍛えられ、ミラやスピカに力を借り、自分の使命を果たしたのだ。
(これで終わった。ずいぶん犠牲を出してしまったけど……)

 その後、武曲の祠に戻り、アルクトゥルスに貪狼の祠まで連れていってもらった。さらに、ミラとスピカを置いてきたことを告げると、「すぐに迎えに行け」と言われた。天漢癒の膜をはっているとはいえ、女の子だけでは危険すぎる。
 しかしシリウスは、浅瀬道の海水が引き切っていなかったのでどうやって向かおうか思念した。すると、アルクトゥルスが北の町側の崖から五の秘剣・錨星を発射し、穂先を視認できない距離の対岸にある木に巻き付けた。
「マジで……?」
 正式な紫微垣との差だろうか。アルクトゥルスは弟子に剣の束を握らせ、そのまま穂先に引っ張られるように体を宙に投げ出させた。
 すさまじいスピードで対岸に飛んでいく。息をするのがやっとで、「のがあああああ」と声にならない声を上げる。1分後に対岸が見えたときはほっとしたが、巻き付けた木にしたたかに体をぶつけてしまった。
「シリウス!」
 突然空から降ってきたシリウスに、ミラとスピカは目をむいた。
「あのじじい……」
 どうやら折れたらしい肋骨と左足をさすりながら、久々に師匠に向かって悪態をついた。
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