Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

試練を終えて

 アルコルの言うとおりだった。カノープスは布団に寝て衰弱していた。昼間はあんなに元気だったのに……。
「カノープス師匠……」
 シリウスが枕元で声をかける。すると、カノープスはゆっくり目を開いた。
「おお、シリウス…試練は成功したようじゃな。これでわしの役目も終わった……」
「カノープスさん、まだ死なないでください! シリウスにはまだあなたが必要なんです!」
 スピカが涙目で叫ぶ。
「スピカちゃん、それは違う……彼は紫微垣のすべての修行を終えた。わしの力が必要になることは、もうない……」
 カノープスは最後の気力を振り絞って起き上がる。そして、シリウスの腕をつかんだ。
「シリウス、わしは…霊体になって導く力は…残ってなさそうだ…歴代の紫微垣の力と想い、しっかりと受け継いでいってくれ」
 そしてミラとスピカに向き直る。
「君たちがいれば…シリウスは大丈夫じゃ。頼んだぞ……」
 最後に微笑み、カノープスの体は砂の城が風に吹かれるように消滅した。
「肉体が…消えている…」
 すると立ち会っていた孫娘さんら家族が、涙ながらに言った。
「肉体を保つことは限界だったのです。寿命を終え、今、塵になって土に還っていったのですよ」

 翌日、三代目紫微垣・カノープスの訃報が町じゅうに伝わり、さらにその次の日には葬儀が行われた。
 亡骸が消えたため火葬はなかったが、アルクトゥルスと同じようにスピカの父親が取り仕切った。三代目紫微垣が存命していたことを知らない者が多く、悲しみというより驚きを隠せなかったようだ。
 葬儀が終わり、骨壺の代わりにカノープスの遺品を入れた箱が、墓地に収められる。すると、名士であるスピカの父親がシリウスを手招きした。
「何かしらね、シリウス?」
 スピカに促されて名士のところに行ってみると、彼はシリウスの肩をつかみ、民衆に向き直らせる。
「皆さん、聞いてください!」
 民に向ける声は、太くてはりのあるものだった。
「四代目、そして三代目の紫微垣を亡くしたことは、星の大地にとって大きな痛手です。しかしこの度、五代目紫微垣が誕生しました。ここにいるシリウスこそが、新たな紫微垣です!」
 民衆からどよめきが起こった。
「新たな紫微垣!? あの若造が!?」
「俺たちを守ってくれるというのか!?」
 不安そうなつぶやきが聞こえてくる。それに対し、シリウスは前に進み出て言った。
「俺は、つい先日、五代目紫微垣を継承した。しかしその半年前、悪友と共にポラリスを盗もうとした」
 どよめきが大きくなり、不安が不信感に変わっていくのが分かった。
「お前……! あの3人組の生き残りか!!」
「盗人が紫微垣だと!? どういうことだ!!」
 非難する声が大きくなる。無理もない、あの大海嘯からわずか半年だ。津波の恐怖は民衆の記憶に鮮明に蘇りやすいのだろう。
 しかしシリウスは、動じることなく言葉を続けた。
「…俺は過ちを犯した。悪友2人の挑発に乗り、ポラリスを盗むことに荷担した。あの時、本当なら止めておくべきだった。申し訳ないことをした」
(シリウス…?)
 ミラもスピカも呆然とした。何だか、今までのシリウスと雰囲気が違う。
「二度と同じ過ちは犯さない。この七星剣に誓って…」
 シリウスが七星剣を取り出した。若葉のような黄緑色の星鏡が、日光に照らされて輝く。威風堂々としたその姿は、紛れもなくポラリスの守護戦士・紫微垣だった。
 ――パチパチパチ。
 民衆から拍手が起こった。1人の女性――スピカの母親だった。
「お母さん……」
 スピカは呆気にとられてその光景を見ている。
「あなたの決意、しっかりと見届けました。どうか、ポラリスを守り続けてください」
 民衆の拍手は徐々に大きくなり、その場にいた全員が万雷の拍手をした。

 ――名実ともに、五代目紫微垣が誕生した!

 覇気がみなぎるシリウス。その姿を、禄存の祠の陰から4人の霊体――アルコル、フォマルハウト、カノープス、アルクトゥルスが微笑みながら見守っていた。
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