Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
アルタイル一団の襲来
「ベガ! 何のつもりだ!!」
アルタイルは、愛人であるベガの顔を激しくひっぱたいた。その拍子に、ベガは床に倒れる。
「何って……コラプサーの握り心地を知りたかっただけですわ」
どうやらコラプサーの柄を握ろうとしたようだ。
「この剣は俺のおのだ! 女のお前が勝手に触ることは許さん!!」
モラハラととらえられる台詞だが、その激昂の本心は…コラプサーを取られるのではないかと怯えていたのである。この魔剣のおかげでみじめな生活から脱出できたのだ。もし奪われたら、またあの泥をすするような生活になるだろう。
「女はだまって男に付き従っていればいいんだよ!!」
男尊女卑の典型的な思想である。この言葉を聞き、ベガはビクッと肩をすくめる――この台詞、あの時と同じ……。
アルタイルはベガをベッドに押し倒して服をすべて脱がせる。この状態では、ベガは身を任せるしかなかった。
が、ベガの目に暗い小さな殺意と憎悪が芽生えた。白い紙に落ちた墨のような小さい感情だったが、これが後に恐ろしい事態を招くことになるとは、この時のアルタイルもベガも知るよしもなかった。
「シリウスー、いるー?」
ミラの明るい声が響く。あの告白の返事から1週間。3人ともいつも通りの雰囲気に戻った。スピカは正式にシリウスと恋仲になったものの、やることはいつもと変わらず、庵に来てシリウスと話したり、お茶を飲んだりするくらいだ。ミラもさして変わらない。
が、シリウスには少し変化があった。時々、紙切れに何かを走り書きしているのだ。スピカもミラも、彼が何を書いているのか見当もつかなかった。ものを書いている姿なんてほとんど見たことがないし、何より雑な字なので読めなかった。ミラが「もっと丁寧に書きなよ」とからかうと、「これが俺のスタンダードだ」と開き直っていた。
しかし数日後。シリウスはメモの内容をスピカに話した。すると、「それ、いいわね」と賛成してくれた。後からミラにも伝えると「すごい! やってみようよ!」と乗り気だった。
が、その前にアルタイルの一団と魔剣・コラプサーを退けなければ…。
シリウスは強く決意した。ポラリスを奪いにくる者たちは、これで最後にする……!
その日は新月の夜だった。月明かりはなく、星の明かりだけが夜道を照らしている。アルタイルの一団が、再びポラリスを盗みにやってきた。数はおよそ200人で、近年での襲来では最大の規模である。
一団は、蟹の目町から数隻の船に分乗し、北の町の貧民街付近に上陸した。これだけの人数が上陸すれば夜でも住人が気付くはずだが、誰も出てこない。怖くなったのである。
それをいいことに、200人の一団が一目散に北辰の祠に向かった。これだけの人数が一気に動くと地鳴りがするほどである。
「行くぞ! ポラリスは俺がもらった!!」
「いや、私がもらう!!」
盗賊団の雑兵たちが、我先にとポラリスを狙う。アルタイルからは「ポラリスを持ってきた者には、1年分の金と3人の女を出す」と言われているのだ。アルタイルは、恐怖だけでなく褒美でも手下たちを動かしている。
20人ほどの男たちが武曲の祠の横を通り抜け、北辰の祠への山道を駆け上がっていく。が、林を抜けて広い岬に出たかと思うと、1人の男が立っていた。その背後には祠があり、台座には――ポラリスがある。
「誰だ、あいつは!?」
「かまうか、殺せ!!」
男たちが一斉にその男に飛びかかると、男は手に持っていたひしゃく型の金属の棒――七星剣を発動させる。
「一の秘剣・魚釣り星!」
刹那、黄緑色の星鏡が光り、七星剣が横薙ぎに鞭のようにしなって20人の盗賊に命中した。さらに次の瞬間、盗賊たちは吹っ飛び、岬の下にある海に落下した。
「うわああ!!」
バッシャーンという音とともに、水しぶきが崖の下にあがる。
「ぷはあっ!!」
盗賊たちは海面に顔を出した。海と言っても水深は2メートルほどだ。海がクッションになり致命傷にはなっていないし、近くの浜にも泳ぎ着ける。
秘剣を繰り出した男――シリウスは眼下の盗賊たちに言った。
「そこから逃げろ! 任務に失敗したお前らを、アルタイルは生かしてはおかない! これを機に盗賊から足を洗え!!」
それを聞いた盗賊どもは、三々五々逃げ散った。シリウスは次々に来る盗賊たちを、同じ要領で撃退していく。魚釣り星の連撃はシンプルだが、威力はこれまでとは比べものにならない。初めてこの秘剣を習得した時から修練を重ね、威力、攻撃範囲は格段に上がったのだ。
(さすがスピカ。これはいい作戦だ)
技を繰り出しながらシリウスは思った。
実は、盗賊団の襲来に備えシリウスたちは迎撃作戦を練っていた。最初の作戦は、スピカの推測から立案したのである。
「最初は雑兵たちが数にものを言わせて襲ってくるはずよ。だから、祠ぎりぎりのところまで誘い込んで撃退するのよ」
祠に近づくと林はなくなるが道は細くなる。そうすると、数にものを言わせようとしても4、5人しか通れないだろう。そこを魚釣り星で追い払うのだ。
さらに、戦闘不能にしてもアルタイルに処刑されてコラプサーの餌食にされるのを防ぐ必要がある。そこで、崖の下の海に落とすことにした。水深を考えれば致命傷にはならないし、無益な殺生を避けられる。盗賊たちだって命は惜しいはずだ。
(デネブの話では盗賊どもは200人ほど。100人くらいは海にたたき落としたからこれで半分か)
襲撃者の一団が一段落し、遠目にまた人だかりが見えた。次の作戦開始である。
アルタイルは、愛人であるベガの顔を激しくひっぱたいた。その拍子に、ベガは床に倒れる。
「何って……コラプサーの握り心地を知りたかっただけですわ」
どうやらコラプサーの柄を握ろうとしたようだ。
「この剣は俺のおのだ! 女のお前が勝手に触ることは許さん!!」
モラハラととらえられる台詞だが、その激昂の本心は…コラプサーを取られるのではないかと怯えていたのである。この魔剣のおかげでみじめな生活から脱出できたのだ。もし奪われたら、またあの泥をすするような生活になるだろう。
「女はだまって男に付き従っていればいいんだよ!!」
男尊女卑の典型的な思想である。この言葉を聞き、ベガはビクッと肩をすくめる――この台詞、あの時と同じ……。
アルタイルはベガをベッドに押し倒して服をすべて脱がせる。この状態では、ベガは身を任せるしかなかった。
が、ベガの目に暗い小さな殺意と憎悪が芽生えた。白い紙に落ちた墨のような小さい感情だったが、これが後に恐ろしい事態を招くことになるとは、この時のアルタイルもベガも知るよしもなかった。
「シリウスー、いるー?」
ミラの明るい声が響く。あの告白の返事から1週間。3人ともいつも通りの雰囲気に戻った。スピカは正式にシリウスと恋仲になったものの、やることはいつもと変わらず、庵に来てシリウスと話したり、お茶を飲んだりするくらいだ。ミラもさして変わらない。
が、シリウスには少し変化があった。時々、紙切れに何かを走り書きしているのだ。スピカもミラも、彼が何を書いているのか見当もつかなかった。ものを書いている姿なんてほとんど見たことがないし、何より雑な字なので読めなかった。ミラが「もっと丁寧に書きなよ」とからかうと、「これが俺のスタンダードだ」と開き直っていた。
しかし数日後。シリウスはメモの内容をスピカに話した。すると、「それ、いいわね」と賛成してくれた。後からミラにも伝えると「すごい! やってみようよ!」と乗り気だった。
が、その前にアルタイルの一団と魔剣・コラプサーを退けなければ…。
シリウスは強く決意した。ポラリスを奪いにくる者たちは、これで最後にする……!
その日は新月の夜だった。月明かりはなく、星の明かりだけが夜道を照らしている。アルタイルの一団が、再びポラリスを盗みにやってきた。数はおよそ200人で、近年での襲来では最大の規模である。
一団は、蟹の目町から数隻の船に分乗し、北の町の貧民街付近に上陸した。これだけの人数が上陸すれば夜でも住人が気付くはずだが、誰も出てこない。怖くなったのである。
それをいいことに、200人の一団が一目散に北辰の祠に向かった。これだけの人数が一気に動くと地鳴りがするほどである。
「行くぞ! ポラリスは俺がもらった!!」
「いや、私がもらう!!」
盗賊団の雑兵たちが、我先にとポラリスを狙う。アルタイルからは「ポラリスを持ってきた者には、1年分の金と3人の女を出す」と言われているのだ。アルタイルは、恐怖だけでなく褒美でも手下たちを動かしている。
20人ほどの男たちが武曲の祠の横を通り抜け、北辰の祠への山道を駆け上がっていく。が、林を抜けて広い岬に出たかと思うと、1人の男が立っていた。その背後には祠があり、台座には――ポラリスがある。
「誰だ、あいつは!?」
「かまうか、殺せ!!」
男たちが一斉にその男に飛びかかると、男は手に持っていたひしゃく型の金属の棒――七星剣を発動させる。
「一の秘剣・魚釣り星!」
刹那、黄緑色の星鏡が光り、七星剣が横薙ぎに鞭のようにしなって20人の盗賊に命中した。さらに次の瞬間、盗賊たちは吹っ飛び、岬の下にある海に落下した。
「うわああ!!」
バッシャーンという音とともに、水しぶきが崖の下にあがる。
「ぷはあっ!!」
盗賊たちは海面に顔を出した。海と言っても水深は2メートルほどだ。海がクッションになり致命傷にはなっていないし、近くの浜にも泳ぎ着ける。
秘剣を繰り出した男――シリウスは眼下の盗賊たちに言った。
「そこから逃げろ! 任務に失敗したお前らを、アルタイルは生かしてはおかない! これを機に盗賊から足を洗え!!」
それを聞いた盗賊どもは、三々五々逃げ散った。シリウスは次々に来る盗賊たちを、同じ要領で撃退していく。魚釣り星の連撃はシンプルだが、威力はこれまでとは比べものにならない。初めてこの秘剣を習得した時から修練を重ね、威力、攻撃範囲は格段に上がったのだ。
(さすがスピカ。これはいい作戦だ)
技を繰り出しながらシリウスは思った。
実は、盗賊団の襲来に備えシリウスたちは迎撃作戦を練っていた。最初の作戦は、スピカの推測から立案したのである。
「最初は雑兵たちが数にものを言わせて襲ってくるはずよ。だから、祠ぎりぎりのところまで誘い込んで撃退するのよ」
祠に近づくと林はなくなるが道は細くなる。そうすると、数にものを言わせようとしても4、5人しか通れないだろう。そこを魚釣り星で追い払うのだ。
さらに、戦闘不能にしてもアルタイルに処刑されてコラプサーの餌食にされるのを防ぐ必要がある。そこで、崖の下の海に落とすことにした。水深を考えれば致命傷にはならないし、無益な殺生を避けられる。盗賊たちだって命は惜しいはずだ。
(デネブの話では盗賊どもは200人ほど。100人くらいは海にたたき落としたからこれで半分か)
襲撃者の一団が一段落し、遠目にまた人だかりが見えた。次の作戦開始である。