Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

津波

 洞窟の外に出ると日は西側に傾いていた。午後2時は過ぎているだろう。アルコルは、弁当のおにぎりを歩きながら食べている。
「つまり、啓示によると、この島では使命を果たすための道具を作るのが目的だったってことか」
「うん」
 アルコルはおにぎりを食べ終わると、鏡の玉――ポラリスを取り出してまじまじと眺めた。
「それ、何か特別な力でもあるのか?」
「ううん、これは要石の役目があるだけだよ」
「要石?」
「地震を抑えるために神前に奉納されるような石ってことかな」
 それを北の村に行って納めるということか…東の都からしたらずいぶん田舎だったよなと、ミザルはつらつら考えている。
「ところで、そっちのはどうやって使うんだ?」
「分からない…」
 底が浅いひしゃく型の金属の棒――七星剣を見て、2人は首をかしげる。確かに奇妙な形である。剣らしいが刃の部分は少ししかない。しかも、七つの鏡の玉がはめ込まれているため、普通の剣術のように使うのは難儀しそうだ。
「まあ、そのうちまた啓示が来るだろうさ」
 ミザルがそう言うと、アルコルはうなずきながらベナからもらった包みをほどいた。おにぎりだけでは足りなかったのである。
「ドライフルーツか、おいしそう」
「一つあげるよ」
 アルコルは、ミザルに干しりんごを渡す。
「ありがとう…っていいのか? 彼女になるかもしれない子からもらったんだろ?」
「か、彼女って……」
 アルコルの顔が赤くなる。
「あの子、いい子だよ。君と結ばれるといいと思うな」
 からかうのではなく、真剣な表情だった。
「まだ人を信じられない時もあるだろう。でも、幸せな恋愛は心を豊かにしてくれるよ」
「そ、そうなんだ…」
 アルコルはドライフルーツを食べながら答える。おいしい。ベナも果物が好きなんだろうな。自分は、日光と風で甘みが凝縮していく果物を観察することが好きで、はまり始めた。料理は母親に強制的にやらされていたけど、ドライフルーツ作りは純粋に好きだ。戻ったら、どんな果物が好きなのか、ベナと話してみたいな……。そんな調子で最後の干しぶどうを口に放り込みながら、ふとつぶやいた。
「何で僕なんだろう?」
 他にも、強そうな人や頭のいい人はいっぱいいる。例えばミザルがそうだ。いろいろなことができるし、神に守護戦士として選ばれてもおかしくはない。
「それは神のみぞ知る…というところか」
「できるのかな……」
 不安そうな顔のアルコル。今度は弱虫が出てきたようだ。
「自信がないよ…ただでさえ弱虫で泣き虫なのに、星の大地を救うなんて……」
 アルコルの表情が曇ったその時――

ドシンッ

 という音とともに地面が揺れた。地震だ、しかもかなり大きい。2人は地面にしゃがみ込んで待った。1分、2分、3分……まだ揺れている。
「これは危険なヤツかもな」
 ミザルがつぶやいてしばらくすると治まった。
「ミザル、ベナたち大丈夫かな?」
 アルコルが言うと、ミザルはハッとした。大地震の次に気を付けなければならないのは津波だ。この分では、大海嘯が起きてもおかしくはない。
「急いでキャンプに戻ろう」
 2人は走り出した。

 1時間ほど走り、ビーチを見下ろせる高台のキャンプに着いた。
「何てことだ……」
 ミザルが呆然とする。ちょうど目の前に津波が押し寄せて来ていたのだ。規模は5メートル程度の高さだったが、それでも押し寄せてくる光景には息を飲まざるをえなかった。
「ミザル! アルコル!」
 例の女の子たちがやってくる。水着姿ということは海水浴中だったのか? 息を切らしているところを見ると、ちょうど今、避難してきたところのようだ。
「みんな、無事か?」
 ミザルが言うと……1人足りないことに気付いた。
「ベナは?」
 アルコルの言葉で、女の子たちはハッとする。
「いない!」
「まさか…逃げ遅れたの!?」
「きゃあああ!!」
 女の子の1人が浜辺を指さす。その先には、ちょうど津波にのみ込まれていくベナが見えた。
「ベナー!!」
 女の子たちが叫ぶが、ベナは為す術もなく海に飲み込まれていく。
「助けなきゃ!!」
 アルコルは浜辺に向かって一気に駆け出した。それは「自信ないよ…」とつぶやく頼りない少年の姿ではなかった。
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