Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
開眼
翌日。朝食をとった後、アルコルとミザルは帰ることにした。女の子たちもその日で帰る予定だったから、一緒に船に乗った。
聞くと、同じ東の都に住んでいるらしい。ただし、東の都は星の大地で最も広く、居住区は離れている。アルコルたちの居住区は昴の祠があるエリアで、おうし座の星図では文字通り昴の星がある辺りだ。ベナたちは南の方で、近くに代々アルデバラン王が住む城がある。こちらはおうし座の一等星があるエリアだ。
帰りの船で、アルコルにとって人生初めてのことがあった。ベナと甲板で2人きりになった時のことだ。
「ベナ…あのね」
「どうしたの? アルコル」
恥ずかしそうにしているアルコルから出てくる言葉を、ベナは期待に満ちた笑顔で待っている。
「僕…ベナのことが好き」
初めての告白だった。最初は女の子から積極的にアプローチを受けてとまどっていたけど、水晶の洞窟に行くとき果物をくれたり、助けた後に「一生かけて尽くす」と言われたり…ここまで言われると気持ちは固まった。
ベナは顔を赤らめ、満面の笑みで言った。
「私もアルコルが好き。大好きよ」
皆が見ているにもかかわらずベナは抱きつき、キスをした。アルコルにとっては初めてのキスだった。
「だいたーん!」
「カップル成立だね、おめでとう!!」
皆が祝福する中、ベナはこそっと言った。
「がんばってね。落ち着いたらデートしましょ」
「うん、ありがと。そうだ、一緒にドライフルーツ作ろうよ」
「いいね、やろうね、約束だよ!」
帰港した後、それぞれの帰路に着いた。
アルコルはとりあえず自宅に寄った。母親に一応あいさつをしようと思ったのだ。
「ただいま」
「おう、おかえり!」
酒臭いアリオトが出てきた。この人は、昼間から酒を飲んでいるのか……。
「母さんは?」
「あ? 庭にいるぜ」
そう返答をもらうと、アルコルはアリオトに目もくれず、無言で庭の方に向かう。
「おい、父親に対してその態度は何だ!?」
陽気な男だが、アルコルが懐かないことが気にくわず、たまに暴力を振るわれたことがあった。今もアルコルの肩を力任せに掴み、とめようとしている。
が、アルコルは鋭い視線で振り向き、「離せよ」と吐き捨てた。
「――!?」
アリオトがひるむ。こいつ、いつからこんな刺すような視線をするようになったのか!?
アルコルは庭に行き、母親――ベナトナシュを見つけた。ついさっき、相思相愛になった恋人と同じ名前である。が、性格と自分への愛は似ても似つかない。
「アルコル! あんた、どの面下げて…」
帰ってきた! と言おうとしたベナトナシュが止まった。息子の様子がおかしい。今までの気弱でおどおどした雰囲気ではなく、覇気がみなぎっている。
「母さん、今までありがとう。そしてさようなら」
「は?」
それだけ言うと、アルコルは門の方に向かう。
「ちょ、どういうことよ! 家の手伝いは!?」
アルコルは、今度は振り返らずに言った。
「僕は大切な使命を授かった。もしかしたら死ぬかもしれない。ただ、生きて帰ったとしてもここには帰らない。今まで育ててくれてありがとう」
これは本心だった。この年齢になるまで育ててくれたのは間違いないのだ。ただ、接し方に愛情のゆがみがあっただけのこと――。
(母親が、なぜあんな性格になったのかを考えなくちゃな)
ここを出て行く時のミザルの言葉を反芻する。本当は聞いた方がいいかもしれない。けど、昨日の地震を考えると大海嘯が起きるのはそう遠い未来ではないはずだ。先に使命を果たさなければ…。
アルコルは、母親と義理の父を振り返らずに走り出した。
自宅を出た後、とりあえずミザルの家に向かうことにした。すると、道の反対側から見慣れた3人の姿が見えた。ドゥベー、メラク、フェクダのいじめ三人組である。
「アルコル…!」
気付いたドゥベーが身構えた。しかし、ミザルの姿がないと分かると、3人でアルコルを取り囲んだ。
「よう、今日は1人かよ。久々に楽しくやろうじゃねえか」
ドゥベーが挑発する。他の2人も下品な笑いを浮かべている。アルコル1人と分かったとたんに強気に出てきたのだ。
アルコルは、七つの鏡の玉が埋め込まれた細い金属――七星剣に手をかけて目を瞑った。そして、おうし座のプレアデス星団・昴と竜巻状の剣閃のイメージが重なった。
「秘剣…」
アルコルが言葉を発すると、剣が光り鞭状に変形する。
「螺旋昴!!」
七星剣がアルコルを螺旋状に取り囲み、竜巻のように上空に巻き上がった。
「いてっ…!」
ドゥベーは避けたが腕を切った。メラクは髪が少し切られ、フェクダは腹にフックパンチのような打撃を受けて倒れた。
「!?」
「な、何、今の!?」
3人が目を剥く。アルコルは今、何をしたんだ!?
「アルコル、お前……」
ドゥベーが青い顔で震えている。生意気なチビが妙なことをしているから、久々にいじめてやろうと思ったらとんでもない迎撃をくらったのだ。金属の棒が変形して伸びるだと!? メラクもフェクダも、後ずさりしながら震えている。
「僕はもう泣き虫アルコルじゃない。星の大地を守る使命を授かった守護戦士・紫微垣だ」
そこにいるのは、いつも泣き顔でおどおどしていた少年ではなかった。その目はきりっとつり上がり、瞳に強い光をたたえている。
「紫微垣だと!?」
「守護戦士だって…ば、ばかじゃないの!?」
「頭でもおかしくなったのかよ!!」
3人が口々に罵る。が、それに動じることもなく、アルコルは剣を向ける。
「何とでも言えばいいさ。僕の邪魔をしなければ危害は加えない。だけど……」
アルコルは剣を光らせ、秘剣・魚釣り星を放った。七星剣はしなりながら3人に向かっていく。
「ひっ!!」
ガゴオン、という轟音を立てて壁が粉々に砕け散る。それを見てドゥベーが悲鳴を上げた。
「邪魔をすれば容赦しないよ」
そのままアルコルは立ち去っていった。
その3日後。アルコルとミザルは北の村に向けて出発した。
聞くと、同じ東の都に住んでいるらしい。ただし、東の都は星の大地で最も広く、居住区は離れている。アルコルたちの居住区は昴の祠があるエリアで、おうし座の星図では文字通り昴の星がある辺りだ。ベナたちは南の方で、近くに代々アルデバラン王が住む城がある。こちらはおうし座の一等星があるエリアだ。
帰りの船で、アルコルにとって人生初めてのことがあった。ベナと甲板で2人きりになった時のことだ。
「ベナ…あのね」
「どうしたの? アルコル」
恥ずかしそうにしているアルコルから出てくる言葉を、ベナは期待に満ちた笑顔で待っている。
「僕…ベナのことが好き」
初めての告白だった。最初は女の子から積極的にアプローチを受けてとまどっていたけど、水晶の洞窟に行くとき果物をくれたり、助けた後に「一生かけて尽くす」と言われたり…ここまで言われると気持ちは固まった。
ベナは顔を赤らめ、満面の笑みで言った。
「私もアルコルが好き。大好きよ」
皆が見ているにもかかわらずベナは抱きつき、キスをした。アルコルにとっては初めてのキスだった。
「だいたーん!」
「カップル成立だね、おめでとう!!」
皆が祝福する中、ベナはこそっと言った。
「がんばってね。落ち着いたらデートしましょ」
「うん、ありがと。そうだ、一緒にドライフルーツ作ろうよ」
「いいね、やろうね、約束だよ!」
帰港した後、それぞれの帰路に着いた。
アルコルはとりあえず自宅に寄った。母親に一応あいさつをしようと思ったのだ。
「ただいま」
「おう、おかえり!」
酒臭いアリオトが出てきた。この人は、昼間から酒を飲んでいるのか……。
「母さんは?」
「あ? 庭にいるぜ」
そう返答をもらうと、アルコルはアリオトに目もくれず、無言で庭の方に向かう。
「おい、父親に対してその態度は何だ!?」
陽気な男だが、アルコルが懐かないことが気にくわず、たまに暴力を振るわれたことがあった。今もアルコルの肩を力任せに掴み、とめようとしている。
が、アルコルは鋭い視線で振り向き、「離せよ」と吐き捨てた。
「――!?」
アリオトがひるむ。こいつ、いつからこんな刺すような視線をするようになったのか!?
アルコルは庭に行き、母親――ベナトナシュを見つけた。ついさっき、相思相愛になった恋人と同じ名前である。が、性格と自分への愛は似ても似つかない。
「アルコル! あんた、どの面下げて…」
帰ってきた! と言おうとしたベナトナシュが止まった。息子の様子がおかしい。今までの気弱でおどおどした雰囲気ではなく、覇気がみなぎっている。
「母さん、今までありがとう。そしてさようなら」
「は?」
それだけ言うと、アルコルは門の方に向かう。
「ちょ、どういうことよ! 家の手伝いは!?」
アルコルは、今度は振り返らずに言った。
「僕は大切な使命を授かった。もしかしたら死ぬかもしれない。ただ、生きて帰ったとしてもここには帰らない。今まで育ててくれてありがとう」
これは本心だった。この年齢になるまで育ててくれたのは間違いないのだ。ただ、接し方に愛情のゆがみがあっただけのこと――。
(母親が、なぜあんな性格になったのかを考えなくちゃな)
ここを出て行く時のミザルの言葉を反芻する。本当は聞いた方がいいかもしれない。けど、昨日の地震を考えると大海嘯が起きるのはそう遠い未来ではないはずだ。先に使命を果たさなければ…。
アルコルは、母親と義理の父を振り返らずに走り出した。
自宅を出た後、とりあえずミザルの家に向かうことにした。すると、道の反対側から見慣れた3人の姿が見えた。ドゥベー、メラク、フェクダのいじめ三人組である。
「アルコル…!」
気付いたドゥベーが身構えた。しかし、ミザルの姿がないと分かると、3人でアルコルを取り囲んだ。
「よう、今日は1人かよ。久々に楽しくやろうじゃねえか」
ドゥベーが挑発する。他の2人も下品な笑いを浮かべている。アルコル1人と分かったとたんに強気に出てきたのだ。
アルコルは、七つの鏡の玉が埋め込まれた細い金属――七星剣に手をかけて目を瞑った。そして、おうし座のプレアデス星団・昴と竜巻状の剣閃のイメージが重なった。
「秘剣…」
アルコルが言葉を発すると、剣が光り鞭状に変形する。
「螺旋昴!!」
七星剣がアルコルを螺旋状に取り囲み、竜巻のように上空に巻き上がった。
「いてっ…!」
ドゥベーは避けたが腕を切った。メラクは髪が少し切られ、フェクダは腹にフックパンチのような打撃を受けて倒れた。
「!?」
「な、何、今の!?」
3人が目を剥く。アルコルは今、何をしたんだ!?
「アルコル、お前……」
ドゥベーが青い顔で震えている。生意気なチビが妙なことをしているから、久々にいじめてやろうと思ったらとんでもない迎撃をくらったのだ。金属の棒が変形して伸びるだと!? メラクもフェクダも、後ずさりしながら震えている。
「僕はもう泣き虫アルコルじゃない。星の大地を守る使命を授かった守護戦士・紫微垣だ」
そこにいるのは、いつも泣き顔でおどおどしていた少年ではなかった。その目はきりっとつり上がり、瞳に強い光をたたえている。
「紫微垣だと!?」
「守護戦士だって…ば、ばかじゃないの!?」
「頭でもおかしくなったのかよ!!」
3人が口々に罵る。が、それに動じることもなく、アルコルは剣を向ける。
「何とでも言えばいいさ。僕の邪魔をしなければ危害は加えない。だけど……」
アルコルは剣を光らせ、秘剣・魚釣り星を放った。七星剣はしなりながら3人に向かっていく。
「ひっ!!」
ガゴオン、という轟音を立てて壁が粉々に砕け散る。それを見てドゥベーが悲鳴を上げた。
「邪魔をすれば容赦しないよ」
そのままアルコルは立ち去っていった。
その3日後。アルコルとミザルは北の村に向けて出発した。