Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

北の村上陸

 いよいよ出立である。アルコルは、ミザルとともに東の都の北端に来た。五車の島には船で行ったが、北の村は徒歩で行くことにした。船では大海嘯が起きた時に手も足も出なくなるからだ。
 2人は、浅瀬道を一気に走り抜けた。紫微垣に開眼してからのアルコルの身体能力は、飛躍的に伸びている。ミザルはもともと足が速く体力もあったので、走り続けることは苦でもない。午前中のうちに北の村の南端にある崖に着いた。この時代は後世のように階段がないので、崖をよじのぼる。これも2人は難なく突破した。
「さて、ここからが本番だぜ、アルコル」
「分かってる…」
 崖を登り切った後、アルコルは目の前の地を見据えた。学舎の授業である程度学んだし、地図で予備知識はある。が、初めて来る地は多少なりとも緊張する。

 この時代、北の地は「町」ではなく「村」だった。人口が1万人程度しかなかったのである。北斗七星にあたる祠もない。低地と高台の地形はほぼそのままであり、アルコルたちは後世における北斗七星の祠を回る順路――つまり高台を進む進路で北辰の祠を目指すことにした。
 手始めに岩屋に進んだ。ここは、後にシリウスがアルクトゥルスに鍛えられる修行場となる。この時は、庵もなく無機質な岩が転がっているだけである。
「何だか神秘的な場所だな」
 ミザルがつぶやく。岩ばかりなのだが殺風景ではないのだ。
「霊的な力が漂っているね」
 アルコルが答える。紫微垣になってからというもの、そのような雰囲気に敏感になっている。
 岩屋を歩いていると、何かが近づいてくるのに気付いた。一つではない、二つ、三つ、四つ…。視認すると、それは黒く四つ足であるく集団だった。
「狼!?」
 アルコルは目を丸くする。ここは狼たちの住処だったのか!
「ワオウン!!」
 リーダー格らしき個体が吠えると、一斉に跳びかかってきた。しかし、アルコルが秘剣・螺旋昴を放つと狼たちは吹き飛び、地面にたたきつけられて伸びてしまった。
「ふっ、もう僕の力に頼らなくてもいいな」
 ミザルが微笑む。ここに来るまでに、二つの秘剣をみっちりと練習したから、もう自在に使いこなせる。倒れている狼たちの間を縫うように進み、岩屋を抜けた。

 ちょうどその頃、ドゥベー、メラク、フェクダは小型船で北の村に近づいていた。
「おお、早い早い! もう着いた!!」
 ドゥベーが叫ぶ。アルコルとミザルが北の村に着いてから1時間後のことである。
「よーし、アルコルたちを追いかけてギャフンと言わせよっ!!」
 メラクが意地の悪い笑みを浮かべ、フェクダもうなずく。あの2人に一泡ふかせたいという一心でここまでできるのはたいした執念である。ところが、予想外のことが起きた。突然船が、「ガオン」という音を立てて動かなくなった。
「何? どうしたの?」
「お嬢様、座礁です!」
 もう少しで岸に着きそうというところでの事故だ。やむなく、3人は小型の舟で、村の浜に上陸した。ちょうど後世の「巨門の祠」が高台にある辺りである。すぐにアルコルたちを捕まえられるだろうと思っていたのでテントはもっておらず、食料などの荷物は少ない。が、これが後に彼らの墓穴を掘ることになる。
「さあて、乗り込むぜ!!」
 ドゥベーの声で3人は、浜から高台の階段を駆け上がった。

 さらにその日の午後。ベナトナシュ、アリオト、メグレスの3人が船で北の村に向かっていた。「アルコルを連れ戻す」という名目のもと、大人3人が手を組んだのだ。行き先は村の西側――貧民街が作られることになる低地である。「武曲の祠」や「破軍の祠」が建てられる地域だ。本当は東側に行くつもりだったが満席だったので、やむなく西側にしたのである。
 潮風を浴びながら、3人は思い思いに過ごす。ベナトナシュは部屋にこもり、ぶつぶつと息子への呪詛じみた文句を言っていた。メグレスはアルコルを案じながら、甲板で北を見据えていた。アリオトは甲板で寝ていたが、起きてメグレスに近づいた。
「メグレス先生、すみませんね。こんなことに付き合わせてしまって…」
「お気になさらないでください、お父さん。私は教師として生徒のことが心配なので…」
 メグレスは微笑んで返した。暑いためかノースリーブのワンピースと、露出がいつもより多い。アリオトの目線は、メグレスの体のパーツに釘付けになっている。
(いい体だな……)
 口が裂けても言えないことを心の中でつぶやく。その時、船がグラリと揺れた。
「わっ!」
「きゃっ!!」
 アリオトは、よろけたメグレスを腕で受け止めた。その腕に大きな胸のふくらみが当たっている。
「ご、ごめんなさい…」
「いいんですよ、大丈夫ですか?」
 この二人の関係が、後に大きな悲劇を引き起こすことになるとは誰も知る由がなかった。
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