Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

迷いの森

「ここに入る者へ。入る前にもう一度考え直してください。あなたの命はかけがえのないものなのです……何これ?」
 アルコルが森の入り口にある立て札を読む。2人は吊り橋を抜け、鬱蒼とした森の入り口に来た。禄存の祠ができた時代には、森が拓かれて共同墓地になるのだが、この時代は暗い森だった。しかも、入り口に物騒な立て札まである。
「自殺者を思いとどまらせるものか」
 おそらくこの森には首つりの遺体などが多数転がっているだろう。アルコルは紫微垣になってだいぶ力も度胸もついたが、さすがに人の遺体を見る勇気はなかった。
 それでも進むしかない。もう夕方になるが、アルコルたちは思い切って、森に足を踏み入れた。

 その頃、アリオトとメグレスは、近くの民宿に泊まることにした。小さな民宿で、空いている部屋が一つしかない。部屋にとおされると、大きめのダブルベッドがある。
「荷物はその辺に置きましょうか、お父さん」
 するとアリオトは、持っていたメグレスの荷物を置いて、彼女の肩を抱き寄せると、ベッドに押し倒した。
「お父さんなんて堅いですよ、メグレスさん。アリオトと呼んでください」
「アリオトさん……」
 うっとりとするメグレス。最初は、ベナトナシュを置き去りにしてしまった罪悪感が少なからずあったが、この宿まで一緒に来る中で薄らいでしまった。そしてまた、他人の夫と関係を持ってしまう瞬間であるにもかかわらず、ためらいはなかった。
 アリオトの唇がメグレスの唇に重なる――。アリオトは慣れた手つきでメグレスのワンピースをゆっくりと脱がしていき、すべてをはぎ取った後、自らも裸になった。メグレスは心の中で、ベナトナシュとアルコルに小さく「ごめんなさい」と小さくつぶやいた後、快楽に身を任せた。

 同時刻の迷いの森。ドゥベー、メラク、フェクダの3人はふらふらになりながら歩いていた。入り口の立て札にメラクとフェクダは怖じ気づいていたが、ドゥベーが進むことを主張し、結局森に入り込んだのだ。
 が、大きな道から脇道に入った途端、同じところをグルグルと回っているような感じになっている。かれこれ1時間経つだろうか……。
「ねえ、いつになったらこの森から抜けられるの?」
「うるさい、少し黙ってろ!!」
 メラクの不安げな問いに、ドゥベーは怒鳴りながら返す。しかし、1時間、2時間経っても抜け出す気配がない。そしてしばらくすると――
「ひいっ!!」
 とフェクダが悲鳴を上げた。
「何だ!?」
 ドゥベーがフェクダの指さす方を見ると――木の枝からぶら下がったロープに、首をくくった人間がいた。
「うわあっ!!」
「きゃああ!!」
 自殺者だった。遺体は腐敗が進んでいるようで、手足が白骨化している。顔は、目玉が眼孔からだらりと垂れ下がっていた。
 さらに、その周りを見ると、完全に白骨化した遺体、腐敗がかなり進んでウジ虫がたかっている遺体などがあった。
「い、い、いやああ!!」
 メラクが発狂したように叫ぶ。
「ほ、本当に自殺者がいたんだ……」
 フェクダが声を震わせる。ドゥベーですら、顔色を悪くして固まってしまった。
 するとメラクがドゥベーをにらみつけて叫んだ。
「ドゥベー! どうするのよ!! 何でこの森に入ろうなんて言ったのよ!! あんたのせいで、みんな死んじゃうじゃないの!!」
「はあ!?」
 ドゥベーの苛立ち混じりの返事を流し、メラクは続ける。
「きっとこの森は人間の方向感覚を狂わせる森なのよ!! 私たち、ここでみんな死ぬんだわ!! あんたのせいだからね!!」
 これを聞いたとたん、ドゥベーの目に暗い光が宿った。次の瞬間、彼はメラクに組み付いて押し倒していた。
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