Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

魔剣の誘惑

 アルコル、メラク、メグレスは先を急ぐ。置いてきた者たちが心配だったが、ゆっくりはしていられなかった。ふと、アルコルは自分の腕に水滴が落ちるのに気付いた。
「…雨?」
 空を見上げるとどんよりとした雲が広がっている。小雨はやがて本格的に降り始め、3人の体を濡らしていく。
(まずい、急がないと…)
 アルコルたちは今、後でいう武曲と破軍の祠の中間にいる。啓示によると、破軍の祠ができる位置まで移動し、そこから北東に向けて山を登るのである。当時、北の町の北側は全て森で、北辰の祠から武曲の祠まで道が拓けていなかった。唯一安心して登れるのが、最西端にある山道だった。
 3人は、何とかその登山口まで来た。そのとたん、グラッと地面が揺れた。
「きゃっ!」
「地震か」
アルコルにも焦りが出始めるが、ここまで来たらあとは一気に駆け登るまでだった。ところが――雨の中に不審な人影を見つけた。
(誰だ?)
日が傾いてきた上に雨でよく見えない。アルコルは目を凝らした。そこにいたのは――。
「母さん!?」
 まぎれもない、それは手足が腫れ上がった母――ベナトナシュだった。
「え、お母さん?」
「何でここに!?」
 メラクとメグレスが驚く。アリオトやメグレスと一緒にこの北の町に来たというのは知っていた。が、このタイミングで突然現れるとは……? メラクの頭に疑問が浮かぶ。
 一方、メグレスは嫌な予感がした。ベナトナシュが行方不明になったのをいいことに、アリオトと2人きりになっていたのだ。どう弁解したらいいのか……。
 ベナトナシュが持っている短剣が目に入った。黒い刀身でなんとも禍々しい雰囲気が漂っている。と、後ろから聞き覚えのある声があった。
「追いついたぜ、アルコル……」
 振り向くと、そこにはアリオトがいた。目が覚めたのか!?
「…アリオトなの?」
 ベナトナシュがしゃべると、アリオトはハッと前方を見た。雨で視界が悪いが、見覚えのある妻の姿があったのだ。
「ベナトナシュ…何で!?」
 アリオトは動揺し、口を滑らせた。
「崖から突き落としたのに、何で生きている!?」
「なんだって!?」
 アリオトの発言にアルコルの目がつり上がり、メグレスの顔が青ざめた。
――しまった!!
 と口を抑えるアリオトだったが遅かった。
「アリオトさん…あなた、奥さんは行方不明って言っていたのは嘘だったの? 崖から突き落としたって…」
「アリオト…あんたって人は…」
 メグレスの驚きとアルコルの怒りが向けられる。と同時に、ベナトナシュが叫んだ。
「アリオトオオオオオオオオ!!」
 刹那、ベナトナシュは地を蹴り、短剣をアリオトに向けて突進する。アリオトはとっさに身構えるが遅かった。気付いた時は、黒い短剣がアリオトの腹を突き刺していた。
「きゃああああああああああ!!」
 アリオトは声も立てずにどん、と倒れた。さらにベナトナシュは、腕や脚をめった刺しにする。体のいたるところから、アリオトの鮮血が吹き出した。
「ちょ、母さんやめて! どうしたんだよ!?」
 アルコルの叫び声でベナトナシュは手を止め、顔を向ける。その目は金色にらんらんと光り、血走っている。
(いつもの母さんじゃない!)
 常に不機嫌な人だが、表情は悲しげなことが多かった。今の母親は怒りと憎悪に支配された悪鬼のような目をしている。
 ベナトナシュはアルコルとメグレスを視認した。メグレス――アリオトが「仲良くする」と言っていた女……自分が崖から突き落とされた後、実際に2人は関係を持った。その現場を見てはいないが、メグレスの表情からそれは読み取れた。
「メグレスウウウ!!」
 短剣を振りかざし、今度はメグレスに向けて突進する。
「いやああああああああ!!」
 メグレスの悲痛な叫びが響く。が、剣がメグレスの胸に突き刺さろうとした瞬間、アルコルの七星剣がブロックした。黒い短剣ごとベナトナシュは吹っ飛んだ。
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