Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

親子の戦い

 何とか黒い短剣を弾いたアルコル。しかし、ベナトナシュはすぐに体勢を立て直し、今度はアルコルに向かって来た。
(仕方ない…!)
 アルコルはベナトナシュの攻撃をかわし、山道を登り始めた。ベナトナシュは、それを追撃するために走り出した。これで、メラクやメグレスに危害が加わることはないだろう。あとは、山の中でベナトナシュを止めるだけである。

 アルコルは走った。後ろを振り向くと鬼のような形相のベナトナシュが追いかけてくる。
――母さんを怒らせて追いかけられた時、鬼婆のようだと思ったことがあったな。
 今のベナトナシュは、まさに鬼婆そのものである。人ひとりが通れる山道を、母子が登っていく。
 10分ほど走った時、アルコルは後ろを向いて七星剣を構えた。
「母さん!!」
 アルコルの声に、ベナトナシュは一瞬反応して止まる。が、すぐに短剣を握り直して突進してくる。
(狂気に満ちている……あの剣のせいか!)
 アルコルは短剣に狙いを定めた。禍々しい雰囲気を醸し出す剣――あの刀身から黒い稲妻が走るたびに、ベナトナシュの腕の血管が浮き出ている。人の心を狂わせる魔剣に違いない。
 ベナトナシュが斬りかかってくると、アルコルは七星剣で斬り結ぶ。ガキインという音が、夜の森に木霊した。二人はひたすらに剣戟を続ける。ベナトナシュが斬撃や突きを繰り出し続けるのを、アルコルは七星剣ですべて弾く。
――まずい、持久戦になると不利だ!
 アルコルの目的は、あくまでポラリスの奉納である。ここでベナトナシュを退けた後、北辰の祠に向かわなければならない。先ほどの地震、そして激しくなっていく大雨――もし鬼雨になれば、星の大地全体に被害が及ぶだろう。
「母さん! 邪魔しないでよ! 僕は祠に行かなきゃならないんだ!!」
 アルコルが焦りながら悲痛に叫ぶが、ベナトナシュの攻撃は止まない。ベナトナシュは、森の枝に引っかかったり虫に刺されたりして、体じゅうが傷だらけになっている。それでも攻撃の手が緩むことがない。しかも、目の充血具合が増して深紅になり、折れているはずの手足は紫色になっている。
――母さんを迎撃する!
 アルコルは腹をくくった。虐待がひどかったとは言え、自分を育ててくれた親を攻撃するのは忍びなかった。が、もはやためらうことは許されない。
(母さん、目を覚まして。そうしたら、母さんの辛かったことを教えて!)
 アルコルは心の中で念じる。ミザルが言っていた「母親の気持ちと過去」を知りたいと思っている。ポラリスの奉納が終わった後に聞いてみようと思った。僕は、自分ばかりが辛い思いをしてきたと嘆いていたけど、母さんだって辛かったんだよね。ごめんね、気付いてあげられなくて……。
 ベナトナシュは、剣を振りかざして飛びかかってきた。鬼のような形相の母親を目ではっきりととらえ、アルコルは七星剣を変形させる。
「秘剣・魚釣り星!!」
 刹那、七星剣が鞭状になり、ベナトナシュに襲いかかる。狙うは――右手だ!
 ガゴオンという音とともに、七星剣の先端がベナトナシュの右手の甲に激突した。手から剣が離れ、彼女はドオン、という音を立てて地に倒れ落ちた。
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