狂気のお姫様
結局教室まで手を掴まれたまま、為す術もなく連れてこられた哀れな私。


「で?」

窓を開けた羽賀愁の背中を見つめつつ、ボケッと突っ立っていると、いきなりこちらを向いたのでビックリした。


「え」

「聞きたいこと」

「あ。この教室、鍵閉めても外から開けられるのって、知ってる人他にいるのかなって…」

「えー。いないんじゃない?」

「あ、そうですか」

「ちなみにだけど、中から開けられないから」

「え?」

「中から鍵閉めたらもう出口は窓しかない」

「最悪すぎません…えっ、てことは」

「あの日、俺が開けなかったら律窓から出なきゃいけなかったね」


サッと血の気が引いた。

思わぬところで助けられていたみたいだ。

なんて最低な教室だここは。いや、でもいいこと聞いたぞ。この不良校、みんなが校舎を破壊するので造りがしっかりしているのだ。教室の扉が開かないのなら蹴飛ばせばいいじゃないか、と思うだろうが、ちょっとやそっとじゃ蹴破れない。簡単に密室が作れる。


「また悪いこと考えてんの?」

「いやいや、悪いこと考えてるのはあちらさんなんで…」

「結果的に律の方が悪いように見えるけど」

解せぬ。


「でも、いいこと聞きました」

「ん」

「…」

「…」


それでだな。

うん。それだけなんだよ。

聞きたいこと、それだけなんだよな!!!


「以上になるのですが…」

「うん」


もう話すネタはないよ!!!!


どうしよう。テメエこれだけのことで俺様を呼びつけたのか、とか言われたらどうしよう。ていうか呼びつけたのは私じゃないけどさ。ほらだから言ったじゃん。あの電話で済ませられたじゃん!!!

コンマ1秒で以上の言葉が頭を通過していき、手持ち無沙汰な私は立っていることしかできない。


帰っていいかな!!!!


「あ、そういえば律、髪染めなかったんだ」

あんたがダメだって言ったんだろう。ていうか帰るタイミング逃したよ。

「まぁ…小田が断念したので…」

あいつはまじで薄情な奴だ。

「いつか染めたいとは思ってますけど…」

「ふぅん。いいんじゃない」

あんた、ダメって言ったりいいって言ったりどっちなんだ。

「アッシュはやめときなよ」

「染まりにくいからですか?」

「んー。まぁそんなとこ」


羽賀愁は長椅子に腰掛けると、くぁっと小さく欠伸をした。

そんな姿でも綺麗だと思えるんだから、本当にこの人、人間じゃないんじゃないか。私だったらもっと不細工に欠伸できる自信があるもんな。
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