狂気のお姫様
周りから悲鳴が聞こえてくるが、そんなこと気にしていないかのように彼は「ここの売店はだめだ」と悪態をつく。


「愁こら。いきなりどっか行ったと思ったら…って、それ誰だよ」

「律」

「埋もれすぎて分からなかったわ」


後ろからやってきた男が顔を覗き込んできたと思ったら、見覚えしかないアッシュの髪の毛と整った顔。

死んだ顔で右手を小さくあげ「やぁ」と挨拶すると「珍しいな」とキョトン顔。


「お昼持ってきてなかったのか?」

「うん」

「今日早起きしてたろ」

「さっちゃんが出張らしいからお見送りしてただけ」

「あー。そんなこと言ってたな」


いつもはせっせとお弁当を作っているのだが、今日はそんな時間がなかったのだ。なんせ大好きなさっちゃんが出張だと言う。しかも一週間。そんなの耐えられない、ということで早起きして朝ごはんを作り、涙のお見送りをしてきたのだ。


「で、この大きい銀色を剥がしてはくれないか」

さっきから周りの視線が気になるのだ。

「あー。無理だな。こいつ今絶賛不機嫌タイムだから」

陽ちゃんは、お手上げ、とでも言うように両手を上げた。

「チッ」

「陽ちゃん、耳元で舌打ちしてくるよぅこの人」

「律うるさい」

「陽ちゃん、うるさいって言われたよぅ」


どうにかこの場から離れたいので、陽ちゃんに助けを求めるが、完全に素知らぬ顔。

相変わらず周りの視線はビッシビッシと私に刺さっており、すごくすごくいたたまれない気持ちになる。

完全に愁さんからちょっかいかけてきてるのに、どうせ私のせいになるんだろうなぁ、と遠い目をしていると「そういえば」と陽ちゃんが手を叩いた。


「お前、昨日のこと小田に聞いた?」

「小田に?ロケット団?」

「は?」

聞き覚えのない単語に陽ちゃんは首を傾げるが、ちょっと待て。お前、このままの体勢で話を進める気か?

「なんだそれ」

うん。進める気だな。

目の前でクロスされている愁さんの腕を気持ち程度にぺちぺちと叩くが、当の本人はビクともしない。よほどカレーパンがなかったのがショックだったのか、石化している。ほんと似合わない。


「なんか、昨日穴掘ってる2人に遭遇したらしくて、ロケット団って呼んでた」

「ぶはっ」


吹き出した陽ちゃんは「ネーミングセンス…!」と言いながら爆笑。

そして、話してる内容こそ聞こえないものの、その姿を見てまた女子たちが顔を赤らめるのだ。

みんな騙されてやがる。



「そういうことね。そうそれ」

「なんか敵が来て、長谷川さんが逃がしてくれたーって言ってたけど」

「そー。それなんだけどな。小田の顔は見えてないらしいんだけど、後ろ姿は少しだけ見えてたらしくてな」

「まじで」

「長谷川蓮に女がいるっつって噂になってる」

「うける」

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