狂気のお姫様

第2節 地獄の体育祭

あれから千秋ちゃんからの連絡はなく、いつも通り過ごしている。

が、こんなに平和でいいんだろうかと思うくらい何もなく、少しだけ不安が募る。まるで嵐の前の静けさのように。

結局千秋ちゃんと会ったことは誰にも言っておらず、手筈通りお見合いという名の探り合いが行われる予定だ。

ジローさん、最近ずっとご立腹で興奮ゴリラ状態だからなぁ……。千秋ちゃんが、本当は結婚する気はないって話をしてもキレそう。もはや何してもキレそう。

でも、今は誰にも何も言わない方がいいんだろう、と直感では思ってる。

成瀬組でも、これが仕組まれたことだって知る人は何人いるんだろうか。組長さんは知ってるとして、側近?幹部?でも誰が裏切り者かも分からないのであれば、知ってる人数は極端に少ないはず。

まさか千秋ちゃんの独断……ってことはないと思うし。


「おい東堂」

「……」

「とーどー」

「……」

「妖怪眉間皺ブス女」

「殺す」

「聞こえてるじゃねぇか」

悪口の癖。ネーミングセンスの癖。小田よ。


「なに」

「何をそんなに考えてんのか分かんないけどさ、姐さん。シークレットが解禁されたって」

「姐さん言うな」

まだなってないしこれからもなるつもりはないんだよこちとら。

……ん?シークレット……?


「それってもしかして」

「そう、体育祭の」

「何になったの」

「チーム対抗ハンカチとりだってさ」

「ハンカチとり……?」

なんだそのいかにも室内競技みたいな名前は。

「で、その後ろにちっちゃく『〜命まではとられるな〜』って書かれてた」

「いきなり物騒」

「だろ」


そう、お分かりだとは思うが、実は体育祭がはじまるのだ。しかも明日。来週にはお見合いが迫っているのに……イベント満載すぎてもうすでに心は折れかかっていたりする。

うちの高校の体育祭は少し特殊らしく、毎年一番最後の競技だけは直前に知らされるらしい。しかも、名前だけでは趣旨は分からず、当日説明されてようやく内容が分かるらしいのだ。まるでロシアンルーレット。ヤンキーばっかりいるからか、体育祭の運営までも性格が悪い。


「どんな競技なんだろうな」

「チーム対抗って言われてるぐらいだから総当りの乱闘じゃない?」

「おま、バカ東堂。怖いこと言うなよ。当たるだろ」

その場合小田は一目散に逃げるだろうな。


「あーあ。体育祭なんてやってる暇ないっての」

「姐やん暇じゃん」

「姐やん言うな」

「暇じゃん」

「暇だけど暇って言うな」

ああそうですよ。暇ですよ。考えることは多いけど考えたってどうせ分かんないし、当事者だけど当事者じゃないし、ええそうですよ考えるだけ無駄ですよ暇ですよ。


「めっちゃ心の中で文句言ってるってことだけは分かる。顔で」


どんな顔だよ。

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