狂気のお姫様
「どうしようかな〜」
なんて周りの女たちを値踏みしているところ悪いが、奴がバツでないことは、あの態度からして一目瞭然。多分。
いつかの借り、ここで返してもらうぞ。
「あれ!?律ちゃ……」
「グッドタイミング!!」
「うごっ…え、なになに愛のタックル?」
走るスピードを落とさず鳴さんに突っ込む。
周りの女子たちが反射的に一歩後ろへ下がったことをいいことに、どさくさに紛れて私と同じようにズボンからぶら下げている鳴さんのハンカチに手をかける。
いきなり突っ込んだにも関わらず、ちゃんと抱きとめてくれる鳴さんはさすが天と言ったところか……、しかしなかなかの呻き声をあげてらっしゃったので、そこはちょっとだけ申し訳なく思ってやろう。
「もしかして…!嫉妬!?」
戯言をぬかしているようだが、私を抱きとめている腕に力を込めようとする直前でスッと体をかがめる。
「あれっ」
空気を掴まされた鳴さんは少しだけバランスを崩し、右足を一歩踏み出す。鳴さんの体が右に傾いたところで、鳴さんの左脇下から廊下に抜けた。
「助かりました!あとはよろしくでーす!!」
一かバチかだったが、この難題をこなした私を称えたい。
「へ?なに、律ちゃん?」
理解できていない様は、先程愁さんにしてやられた私を見ているようで少し滑稽。
時間にして数秒。
ハンカチをすり替えられたと気づくのも恐らく数秒。
しかしだ。
「あーー!律ちゃん見つけた!!!」
鬼ごっこは数秒が命とりになるのだ。
「あれ!?鳴!?」
佐々木夕はすでに事の次第に気づいたようで、ターゲットを私から金髪にチェンジする。
「うわっ!!なんで!?」
その0コンマ1秒後に、私にしてやられたことに気づく鳴さん。
同じチームなのは重々承知だが、私はチームの勝ち負けなんぞ知らん。
「りつちゃーーーーん!!!!」
金髪の断末魔が聞こえたような気がするが、もともとそのバツのハンカチは私のではないし、罪悪感は微塵もない。せいぜい頑張ってくれたまえ。南無三。
「ふぅ……」
角を曲がり、息を整える。
さすがに疲れたか。
今度こそ残りの時間をゆっくり過ごせるところを探さなくては。
校内はどこも乱闘が起きており、それに巻き込まれないように避けながら進んでいく。
「この教室は閉まってたし…」
もはや鍵がかかっている教室で時間を潰せば…?と思うが、ルール違反で目立つのは避けたい。
「うーん」
ぶつぶつと呟きながら次の角を曲がると、
「ふがっ!!」
教室のドアからいきなり腕が伸びてきて、私の口元を覆う。
「んん!!!」
なんだ敵襲か??と、物騒なことを瞬時に考えるが、嗅ぎなれた匂いに、落ち着きを取り戻す。
「黒髪ツーブロック、身長170cm後半」
そして放たれた言葉に、頷いた。