元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「すっっごくよくお似合いです、これほど高貴な赤を着こなせる婦人はそうはいませんよ!」

 ルカナは胸の前で拳を作りながら力説した。
 アンジェリカはしばし黙って、鏡の中の自分を見つめていた。
 こんなふうにドレスアップするのは、子供の頃以来だ。
 大人になって初めて、着飾った自分の姿を見たアンジェリカは、なんだか不思議な気分だった。
 髪はアンジェリカのウェーブを使って、自然なカールの状態で下ろしてある。
 金の縁に、赤い宝石が埋め込まれた、耳と首元を彩る装飾品。
 一級品で飾られたアンジェリカは、キラキラと輝いて見えた。
 
「そ、そうかしら?」
「そうですともっ、これはクラウス様もさぞお喜びになられますよー!」

 急に上等なものに身を包まれたアンジェリカは、少し気後れしていた。
 そんな彼女を見たルカナは、アンジェリカの最初の服装を思い出す。
 あんな下品なピンクのドレスは、とてもアンジェリカには似合わなかった。質もよくなかったし、アンジェリカが好んで着たとは思えない、だとしたら誰かが無理やり着せたのだろうかと。
 ルカナはアンジェリカの様子から、あまり実家でよい扱いを受けていなかったのかもしれないと感じた。
 一介の使用人が貴族の事情に首を突っ込むわけにはいかないので、口には出さないが。
 支度が終わると、ルカナがドアを開き、アンジェリカは部屋を出た。
 すると衣装部屋のすぐそばで、銀髪紳士の後ろ姿を見つける。
 アンジェリカにつきっきりだった彼も、お風呂を済ませて、新しい装いに変わっていた。
 クラウスは内廊下で立ち止まり、広間の方を見下ろしていた。アンジェリカを待っていたのは明らかである。
 その証拠に、クラウスは衣装部屋が開くとそちらを振り返った。
 そして、アンジェリカを見た瞬間、切れ長の目を大きく開いた。

「……変かしら?」

 ずいぶん驚いた様子のクラウスに、アンジェリカは少し不安そうに尋ねた。
 こんな上等な装い、自分には相応しくなかっただろうかと心配になったのだ。
 アンジェリカに声をかけられたクラウスは、我に返ると困ったように微笑んだ。

「いや……あまりに美しすぎて、言葉を失くしていました……とてもよくお似合いです、あなたの前では女神も霞むでしょう」

 口を開くとアンジェリカを褒め称える言葉しか出てこない。
 そんなクラウスに、アンジェリカは頬を染めて困惑した。
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