元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「ご紹介いただきました、アンジェリカでございます。この度、ブリオット公爵家に嫁ぐことになりました。私は……」

 アンジェリカは一旦言葉を切ると、その先を考えた。
 そのままでいいと言ってくれた、クラウスの言葉を胸に、自分らしく話すしかないと思った。
 目を逸らさないよう意識して、背筋を伸ばし、胸を張る。
 少しでも、クラウスに釣り合うように。

「私は、事情があって、社交界に来たことがありません、こんなふうに着飾って、パーティーに出るのも初めてです。なので……至らない点がたくさんあるかもしれません、ですが……み、皆様と、仲良く、なれたらと思っていますので、どうぞ、よろしくお願いいたします……あっ、しゅ、趣味はお料理です!」

 アンジェリカはガバッと頭を下げた後、急いで顔を上げて最後の言葉を付け足す。
 それから改めて、深々とお辞儀をした。
 アンジェリカの斬新な挨拶に、一瞬、来客たちはあっけに取られていたが、どこからかパチパチと拍手が聞こえた。
 最初まばらだったそれは、次第に増えて、会場は祝福ムードに包まれた。
 冷たい反応も覚悟していたアンジェリカは、想像以上の温かな空気に胸を撫で下ろした。
 そんな彼女を、クラウスは誇らしげな瞳で見つめた。
 そしてウエイターが持ってきたシャンパングラスを受け取ると、その手を高く掲げた。
 
「堅苦しい挨拶はこれで終わりです、後は皆様、ご一緒に美味しいものを食べて、楽しく過ごしましょう」

 みんなクラウスに従い、シャンパングラスを片手に持つ。
 そしてどこからか、クラウスに続く乾杯の合図が聞こえてくる。

「新たなブリオット公爵の誕生と」
「アンジェリカご令嬢との婚約を祝して」
「かんぱーい!」

 みんな声を揃えて、シャンパングラスを掲げた。
 しかし、ユリウス、アマンダ、ミレイユはグラスすら持たずに、乾杯に参加することもなかった。
 意気消沈するユリウスとアマンダに、茫然と立ち尽くすミレイユ。
 彼女は仲睦まじいクラウスとアンジェリカを、遠巻きに眺めていた。
 すると、不意に、誰かと肩がぶつかる。

「イタッ……」

 突っ立っていたミレイユは、少しよろけながらも、キッと相手を睨んだ。
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