年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
そして翌日の昼休み。
私はニヤニヤしながら携帯を眺めていた。
画面に映し出されているのは朝に撮影をしたベランダのトマト。
あれから緑の実はいよいよ大きく成長して、あとは赤くなるのを待つばかりだった。
見れば見るほど大きさといい形といい、売られているものと遜色ないんじゃないの? トマトもさることながら、このアングル設定も決めた撮影者の腕もいいのかな?
なんて思わず自画自賛をしてしまう。

ついでに今、SNSにもアップしちゃおうかなと、写真をタップしようとしたその時。

「小西さん、なにトマトの写真みてニヤついてんですか?」

両隣から入ったツッコミに、そっと携帯から手を離すと何もしていなかった様に振る舞った。

「……え?これね、うちのベランダで作ってるトマトなのよ。大きく育ったから記念に今朝写真を取ってきたの」

せっかく話題になったのだからこれも良い機会だろう。「ちょっと見てみて!」と、我が子を自慢する親みたいに歴代の生育記録をどうだとばかりに見せびらかしていると、高橋君が際どい質問を投げかけてきた。

「へえ、小西さんマメに写真取ってますね。もしかして、これSNSとかにも載せちゃったりしてます?」

変な方向に話が行ったと思わずブワリと冷や汗が出る。

「……えっ?でもSNSって社則で使用禁止よね?」
「でも今どきSNS全面禁止とかって、厳しすぎますよね〜。俺なんてここだけの話、読み専のアカウントだけは持ってますもん」
「バカだなー高橋。小西さんが禁止されてるのを、やるわけ無いだろ?」

中々SNSの話から離れてくれない高橋君に何と返せばよいのやら。アカバレするのは御免被りたいと、あたふたと挙動不審になっていると田中君が援護射撃をしてくれた。


「大体高橋さあ、そんな話を大きい声で言うなんていい度胸してるよな。建前とは言え禁止なんだから、聞こえたら課長に怒られるぞ?」
「おっ?なんだよ田中。イイコちゃん発言だな」
「イイコじゃないけど、怒られるのは嫌だろ?」
「まあな。けどなあ〜」

会社の処遇に不満があるような高橋君は、田中君に諭されながらもなんだか面白くなさそうな顔をする。
そしてそのまま興味が無くなったのか「じゃ飯買いに行ってこようかな」なんて席を離れていったので、話はそこで終わりとなったのだった。

……また、田中君に助けられてしまった。
何を根拠に「小西さんが、やるわけないだろ?」と言ってくれたのかは不明だけれど、庇ってくれてありがとう田中君!嬉しい!!

でもね、私、SNSやってました!ごめん!!

田中君へ、騙したようで申し訳無いと心からの謝罪をしながら居住まいを直していると、彼はこちらをジッと見つめている。そしてそっと顔を寄せてきたかと思うとコソっと私の耳元で、いたずらっぽく囁いた。

「……とは言ってはみましたけど、小西さん、実はSNSやってません?」
「えっ!なっ!なに?なんで?!」

吐息が耳をくすぐり、田中君の体温すら感じる程のその距離感。思わず耳を抑えるが、顔に血が上るのがわかる。やだ田中君、急にどうしたの??
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