年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
「……実は、俺の好きな子も、トマト作ってるんですよ」

先程までの人を食ったような飄々とした雰囲気はどこへやら、高橋君は真剣な、熱っぽい目でじっとこちらを見つめてくる。

……あ、あれ?
これもしや、恋愛漫画でよくある『恋愛相談にかこつけた愛の告白』ってやつ?
私、高橋君にこれから告白されちゃったりする??
えっと、でも私は田中君が気になってるんだから、告白されても困るだけなんだけども!!

ぐるぐる考えを巡らせて慌てる私に気づかずに、高橋君は話を続ける。

「あ、いや、彼女がって言うか、彼女の実家のが、なんですけどね。彼女の実家、先祖代々続く農家らしくて果樹やら野菜やら作ってるらしいんですよ」

……違った。
愛の告白じゃなかった。
高橋君の好きな子は私じゃなかった。

安堵すると共に自分の勘違いに恥ずかしくなりながら、それを隠すように話に耳を傾ける。
どうやら高橋君はこの会社に想い人がいるらしい。
彼女のことは初恋、片思いの相手だったらしい。

「彼女とは中学までの同級生だったんですよ。俺はその後引っ越しちゃったんでそれきりだったんですけど……。でも、今年になって向こうが中途採用で入社してきたんです」
「えーっ。そうなんだ?」
「 これってどう思います?この広い世界でまた奇跡的に同じ会社で再会できたんですよ?もうこりゃ運命としか思えなくないですか?」

いつものちょっと斜に構えたような気だるげな表情はどこへやら、頬を赤らめ夢見る少年の様な様子で高橋君は一気にまくし立てる。

「あー、まあ、そうかもしれないよね?」

なんと返答するのが正解かわからず曖昧に相槌を打ってみる。
忘れかけていた初恋の再燃とやらで彼女を一目見た瞬間、当時の気持ちが蘇り、感情が昂った高橋君はそのまま彼女に「付き合ってほしい」と告白したらしい。
するとその答えは。

「そしたら即答で、『無理』って言われたんですよおぉぉぉ……」

高橋君は両手で顔を覆うと、「俺の何がいけなかったんだろう」と呟き、ガクリと頭を項垂れる。
まあ10数年ぶりに再会したばかりの中学の同級生 (しかもイケメン) から出会い頭に突然告白されたら、なんだか胡散臭さすぎて取り敢えず断るよね……。彼女の判断はごく常識的なものであると私は思うけれど、そんな理屈は思春期の想いを拗らせ恋の暴走特急と化したと高橋君には通用しなかったようである。

「俺、自分で言うのも何ですけど、仕事だってちゃんとそれなりにこなしてるし、女子にもまあまあ人気あると思うんですよね。なのになんで……」

いや、だから突然すぎる告白だったからじゃないの?
口元までそんな言葉が出かかるも、あまりにも正論すぎる回答は求められていない気がする。

「うーん。なんで断られたのか理由は聞いてみたの?」 
「そりゃもう酷いもんで、発言内容がチャラくて胡散臭い、突然すぎる、なんか信用できないと、まあボッコボコにやられましたよ」

仕方がないのでこれまた当たり障りのない質問で返してみると、むくりと頭を起こした高橋君は、恨めしそうな顔をする。

あ、やっぱりそうなるよねー。

「じゃあ、彼女に信用してもらえるようにこれから地道にアプローチしていくしかないね?」

彼女とは気が合いそうだと思いつつ、高橋君になんの役にも立たなそうな慰めの言葉を投げかけてみる。

「地道なアプローチって何なんですかね?」
「えっ……。例えば自分はチャラくないぞ、この気持ちは真剣だぞ、ってアピールするとか?」

そんな熱烈なアプローチなんてされた事がないので今一つ具体的な例が出てこない。なんとも頼りないになってしまうが高橋君には何か響くものがあったのか「そうか……そうですよね」と呟いた。

「やっぱり小西さん、伊達に年齢を重ねてないですね!」

そして実に女性に対して失礼な台詞を言い捨てて、「じゃまた何かあったら相談に乗ってくださいよ!俺も相談に乗りますんで!」と、晴れやかな顔で休憩室を出ていくのだった。
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