早河シリーズ最終幕【人形劇】
正午前のニュースでは日米首脳会談は滞りなく行われ、この後はアメリカ大統領を交えての会食と視察が予定されていると報じられた。
新宿区四谷の自宅で早めのランチタイムを過ごしていたなぎさは、ニュースを流すテレビとは別の物音に反応した。携帯電話が鳴っている。
テレビを消し、携帯画面を見ると知らない番号からの着信だった。一瞬の迷いの後、彼女は用心深く通話に応答する。
「……はい」
{香道なぎささんでいらっしゃいますか? 警察庁の宮本と申します}
「宮本さん?」
{阿部警視の下に所属しております}
警察庁の宮本という名前に心当たりはなかった。彼の声をどこかで聞いた覚えがある気はするが、電波を通して聞けば誰の声であっても似たり寄ったりの声に聞こえる時もある。
阿部は早河と協力関係にある警察庁の刑事だ。宮本が阿部の部下と聞いて、なぎさは警戒を緩めた。
{香道さんは非常に危ない立場にいます。キングが狙うとすれば、早河さんの恋人であるあなたです。ご自宅にひとりでいるのは危険だ。こちらで完璧な警備体制の下、安全な場所をご用意しました。すぐにご自宅を出られるよう準備をお願い致します}
「えっと……それは阿部警視の指示ですか? 早河も承知のことでしょうか?」
{もちろん、阿部警視の指示ですよ。早河さんもご承知のことです。うちの者が香道さんのご自宅に向かっています。そろそろ到着する頃でしょう}
宮本の言葉通り、部屋に呼び鈴が響いた。宮本との通話を繋げたままインターフォンのモニターを覗くと玄関の前にスーツ姿の女が立っていた。宮本の声が携帯から聞こえる。
{誰か訪ねてきましたね}
「はい。スーツを着た女性が玄関の前に……」
{同僚の久保だと思います。眼鏡をかけて、髪をひとつに束ねていませんか?}
モニター越しの女は確かに眼鏡をかけ、黒髪を後ろでひとつに結っている。モニター越しに彼女は警察庁の久保と名乗った。
{後は久保の指示に従ってください。私はご自宅の前でお待ちしています}
宮本は早々に通話を切ってしまった。用件だけを伝えてこちらの言い分を聞かない宮本のやり方に少々腹は立つが、そんなことを言っても仕方ない。
(だけどあの宮本って人の声、最近どこかで聞いたことがあるのよね。阿部警視の部下ならどこかで会っていたとか?)
とりあえず玄関の鍵を開け、久保と対面した。久保は丸顔に眼鏡をかけた生真面目そうな女性だった。
「突然申し訳ありません。宮本から連絡がいっているとは思いますが」
「聞いています。安全な場所を用意したと宮本さんは仰っていましたけど具体的にはどこに?」
「警察庁が管理する施設です。詳細は後程ご説明しますので、まずは宿泊できる準備をお願い致します」
その詳細を今すぐ聞きたかったのだが、これも今は聞けないらしい。なぎさは久保を玄関に入れた。
靴箱を背にして直立不動する久保の視線を気にしつつ、クローゼットからキャリーバッグを出した。
「用意は何泊くらいですか?」
「そうですね……二泊ほどの用意で構いませんよ」
久保は警察庁職員の肩書きにはあまり似合わない純朴な顔立ちをしていた。年齢はまだ若い。20代の半ば辺りに見える。
顔は可愛らしいのだから生真面目な仏頂面ではなく、もう少し愛想良くしていればこちらが受けとる印象も良くなるのにと思ってしまう。
新宿区四谷の自宅で早めのランチタイムを過ごしていたなぎさは、ニュースを流すテレビとは別の物音に反応した。携帯電話が鳴っている。
テレビを消し、携帯画面を見ると知らない番号からの着信だった。一瞬の迷いの後、彼女は用心深く通話に応答する。
「……はい」
{香道なぎささんでいらっしゃいますか? 警察庁の宮本と申します}
「宮本さん?」
{阿部警視の下に所属しております}
警察庁の宮本という名前に心当たりはなかった。彼の声をどこかで聞いた覚えがある気はするが、電波を通して聞けば誰の声であっても似たり寄ったりの声に聞こえる時もある。
阿部は早河と協力関係にある警察庁の刑事だ。宮本が阿部の部下と聞いて、なぎさは警戒を緩めた。
{香道さんは非常に危ない立場にいます。キングが狙うとすれば、早河さんの恋人であるあなたです。ご自宅にひとりでいるのは危険だ。こちらで完璧な警備体制の下、安全な場所をご用意しました。すぐにご自宅を出られるよう準備をお願い致します}
「えっと……それは阿部警視の指示ですか? 早河も承知のことでしょうか?」
{もちろん、阿部警視の指示ですよ。早河さんもご承知のことです。うちの者が香道さんのご自宅に向かっています。そろそろ到着する頃でしょう}
宮本の言葉通り、部屋に呼び鈴が響いた。宮本との通話を繋げたままインターフォンのモニターを覗くと玄関の前にスーツ姿の女が立っていた。宮本の声が携帯から聞こえる。
{誰か訪ねてきましたね}
「はい。スーツを着た女性が玄関の前に……」
{同僚の久保だと思います。眼鏡をかけて、髪をひとつに束ねていませんか?}
モニター越しの女は確かに眼鏡をかけ、黒髪を後ろでひとつに結っている。モニター越しに彼女は警察庁の久保と名乗った。
{後は久保の指示に従ってください。私はご自宅の前でお待ちしています}
宮本は早々に通話を切ってしまった。用件だけを伝えてこちらの言い分を聞かない宮本のやり方に少々腹は立つが、そんなことを言っても仕方ない。
(だけどあの宮本って人の声、最近どこかで聞いたことがあるのよね。阿部警視の部下ならどこかで会っていたとか?)
とりあえず玄関の鍵を開け、久保と対面した。久保は丸顔に眼鏡をかけた生真面目そうな女性だった。
「突然申し訳ありません。宮本から連絡がいっているとは思いますが」
「聞いています。安全な場所を用意したと宮本さんは仰っていましたけど具体的にはどこに?」
「警察庁が管理する施設です。詳細は後程ご説明しますので、まずは宿泊できる準備をお願い致します」
その詳細を今すぐ聞きたかったのだが、これも今は聞けないらしい。なぎさは久保を玄関に入れた。
靴箱を背にして直立不動する久保の視線を気にしつつ、クローゼットからキャリーバッグを出した。
「用意は何泊くらいですか?」
「そうですね……二泊ほどの用意で構いませんよ」
久保は警察庁職員の肩書きにはあまり似合わない純朴な顔立ちをしていた。年齢はまだ若い。20代の半ば辺りに見える。
顔は可愛らしいのだから生真面目な仏頂面ではなく、もう少し愛想良くしていればこちらが受けとる印象も良くなるのにと思ってしまう。