早河シリーズ最終幕【人形劇】
 何を迷っている? 捜査の手が三浦に及ぶのを恐れている?
3年前の自分はどうしていた?

恋心を抱いた佐藤瞬が一連の連続殺人の犯人だと確信した時は、上野警部にそのことを打ち明けられた。3年前にできたことがどうして今はできない?

 荷物をまとめている最中にバッグの中身を見てハッとした。貴嶋に奪われた携帯電話がバッグに入っている。
バッグの中は昨夜以降見ていない。昨夜は携帯は入っていなかった。

いつの間にか手元に帰って来た携帯を握り締める。携帯をバッグに入れることができた人間は、今朝この部屋を訪れた三浦以外は考えられない。
敵か味方か、最後まで真意の読めない男だ。

「どうしたの?」
「携帯が戻っているんです。ここに連れて来られる前にキングに盗られて……でも今バッグの中を見たら入っていて……」

 美月の手のひらに収まる二つ折りの携帯電話。真紀はそのショッキングピンク色の携帯を持ち上げた。大きなファーのストラップが左右に揺れる。

「この部屋に誰か来た?」
「キングの側近の男の人が何度か来ました。ここで一緒にご飯食べたりして、きっと私の世話係みたいなものだったんだと思います」
「じゃあその男が携帯を美月ちゃんに返したのかな」
「多分……。その人は小山さんに逮捕された人とは違う人です」

美月の携帯電話を眺めて彼女は考え込む。貴嶋の側近が美月に携帯を返した理由は、どれだけ考えを巡らせても迷宮のままだ。

「ごめんね。携帯が戻ってきたばかりで悪いけど、念のため指紋を取るからこの携帯、預からせてもらえないかな? ご両親への連絡は私の携帯からしていいから」
「……わかりました」

 美月の携帯は真紀に渡り、真紀は上野警部に美月保護の報告の電話をしている。

 報告を終えた真紀と共に美月は3003号室の外に出た。軟禁されている間は、何度試みても内側からは開かなかった開かずの扉は簡単に開き、また静かに閉ざされる。

 二度とこの部屋に来ることはないと思った途端に生まれた寂しさにも似た感情に足を止めて振り返った。

あの人はどこの誰で何者だった?
あの人は本当にここに居た?

あの人は今どこに居る?
そもそもあの人は実在したの?

三浦英司は手を伸ばしても掴めない幻のような存在だった。佐藤瞬の幻はもういない。

 3年前の真夏の白昼夢と同じ、夢のような現実の3日間に美月は別れを告げた。

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