早河シリーズ最終幕【人形劇】
 現場ではまだ玲夏と黒崎が撮影中だ。遠巻きに撮影の様子を眺めていた矢野は蓮に小声で話しかけた。

『黒崎については調べていてひとつ気になる事がありました』
『なんだよ?』
『黒崎は高校時代に同級生が死んでいるんですよ。自殺で処理されていますがその同級生の死体の第一発見者が黒崎だったんです』

当の黒崎来人はこれから撮影するシーンのセリフの言い回しを監督と話し合っている。

『まさかそれを黒崎がやったとか?』
『いや……学校での首吊りでしたが死因に不明な点はなく、間違いなく自殺と判断されたようです。死亡推定時刻は午前7時頃……黒崎が発見した時間は死亡推定時刻の直後でした。発見した時にはまだ息があったのかもしれない』
『もし黒崎が発見した時にまだそいつが生きていたとしたら……ってこと?』

 矢野は頷いた。巨大なビルの隙間から見える狭くて窮屈そうな青空がビルの窓に反射している。空が二つ存在しているみたいに見えた。

『いつも遅刻寸前で登校してくる黒崎がその日に限って朝早くに登校していたことも気になります。当時も警察ではそこを追及されていましたけど、黒崎はたまたま朝早くに起きて登校したら教室で死体を見つけたと』
『はぁ……都合の良い話だな』
『確かに。でも死因は自殺で間違いないことから警察も黒崎を調べることができずに捜査は終了』

 スタイリストが蓮の衣装チェックに来て二人の話はしばらく中断する。スタイリストが去った後、話が再開した。

『自殺した同級生は黒崎と親しかったのか?』
『友達だったようです。その同級生は劇団に所属していて舞台にも出演したりして、それなりに人気があったらしいです』
『俺もその頃には芸能界にいたから、もしかするとどこかで顔を合わせていたかも。名前は?』
『三浦英司。生きていれば黒崎と同じ33歳でしたね。もしも自殺していなければ、今頃は黒崎ではなく、三浦英司がこの場所にいて蓮さんと共演していた……なんだか、俺はそう思えてならないんですよ』

 矢野は周囲に視線を張り巡らせる。今のところ目立った怪しい動きはない。少し離れた場所にいるなぎさもマネージャーの沙織と共に撮影を見守っていた。

(乃愛が現れるとすればロケ現場かスタジオのあるテレビ局か……。テレビ局は警備が厳重だ。事務所や自宅の侵入も難しい。となると、街中でのロケが一番狙いやすい)

 玲夏と黒崎のシーンが終わると見物人から拍手が沸き起こった。
スタッフジャンパーを着た女が玲夏に近付く。その姿は乃愛ではないが、女がジャンパーのポケットから出した銀色に光るナイフを見て矢野は叫んだ。

『玲夏ちゃん! 逃げろっ……!』

矢野の声に振り向いた玲夏にナイフを持った女が突進する。なぎさが玲夏の腕を引き、その反動で二人は地面に倒れた。
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