早河シリーズ最終幕【人形劇】
 矢野はまずなぎさを見て、それから玲夏と蓮を見る。

『玲夏ちゃん、蓮さん。俺に命預けてくれる気、ある?』

 普段は調子よくヘラヘラとしている矢野の、いざというときの頼もしさになぎさはいつも驚かされる。

『何か考えがあるんだな?』
『一か八かの賭けってところですね。ただ玲夏ちゃんと蓮さんには無茶をさせることになりますが』
「いいよ。どうせこのままじゃいられないなら、何もしないよりはマシ。一輝くんに命預けるよ」

玲夏は蓮と顔を見合わせる。蓮も苦笑いして頷いた。

『一輝、俺達はお前を信じてる。俺も命は預けた』
「だから一輝くんも約束して。私達を守る前に自分の身を守って。あなたに何かあったら私が真紀に怒られちゃう」

矢野の胸元を玲夏が拳で軽く押した。矢野は拳に込められた想いを受け取って笑う。

『俺も真紀を残しては死なないよ。この世に絶対なんてものはない。けど最善を尽くすことはできる』

 決意を固めた矢野はなぎさに耳打ちした。

『なぎさちゃんはここにいて』
「でも……」
『黒崎の姿がどこにもない。もし黒崎がカオスの人間なら、なぎさちゃんはここを動かない方がいい。こんな人目のある場所で黒崎が俺達に何か仕掛けるとも思えないからね。いいね?』

 本当は危険な賭けに出ようとする矢野達をなぎさは止めたかった。もし早河がここに居ればどうしていた? きっと早河も矢野と同じ決断をしているはずだ。

「矢野さん、玲夏さん、一ノ瀬さん、気を付けて……」
『ありがと。なぎさちゃん、これが終わったらデートしよっか』
「こら! 蓮。どさくさに紛れてなぎさちゃんを口説かないのっ」

緊迫した状況でも蓮と玲夏の変わらないやりとりになぎさの不安も少しだけ溶けた。

 矢野は一歩前に出て乃愛と対峙した。

『乃愛ちゃん。君の目的は玲夏ちゃんと蓮さんだろ? 二人が君と話がしたいって言うから今からそっちに行かせるよ』

乃愛は表情の乏しい顔を傾けた。こちらの声は聞こえているだろうが、相変わらず目は虚ろで生気はなく、その姿は上から糸で吊られている操り人形を連想させた。

『乃愛。俺が代わりになる。だからその人を離してくれ』

 蓮の声に乃愛が反応した。彼女は笑った口元から歯を覗かせる。

「蓮さん……乃愛のところに来てくれるの?」
『ああ。お前の話なんでも聞いてやる』

蓮と玲夏は乃愛と人質がいる地点まで歩み寄る。二人は一歩、二歩と乃愛に近付いた。
周囲を囲む警官隊には阿部警視の指示が伝わっている。
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