続お菓子の国の王子様〜結婚に向けて〜 花村三姉妹 美愛と雅の物語
「ああ、なんだテメー? 俺が先にこいつを見つけたんだよ。引っ込んでろよ!」
……、えっ、この酔っ払い、社長の雅さんの顔も知らないの? そんな状態で、どうしてこのパーティーに来たの? この人、本当に招待客なの?
すると、会場の入口から大和副社長と並んで、スーツ姿の年配の男性が駆け込んできた。
父さまと同じくらいの年齢かしら? かなり焦ってるみたい。
あの人……、たしか……。
「おい、将太! おまえ、こんなに酔っ払って……、なにをやってるんだ! 西園寺社長に何てことをしているんだ!」
やっぱり、そうだ。
あの方は、うちの会社との取引をお願いしに来ていた、クズノ株式会社の社長さん。
ということは……、この酔っ払いが、あの人のご子息?
「葛野社長。今日はお祝いの席ですので、これ以上は公にはしません。ですが、私の婚約者に対する非礼については、弁護士の伊集院と相談のうえ、そちらに正式に連絡を入れさせていただきます」
雅さんの声が、氷のように冷たく響いた。久しぶりに聞いた、この声。穏やかな日常では決して見せない、彼の“社長”としての顔。今はその奥に、怒りの炎がくすぶっているのがわかる。
……、怖い。でも、それ以上に彼の怒りが、私のために向けられていることに、胸が熱くなる。
その時、あおちゃんと彰人兄さまも駆けつけてくれた。
私の赤く腫れた手首を見るなり、あおちゃんがひとこと。
「あら……、こんなに真っ赤になるほど強く握られてたのね? 痛かったでしょう。かわいそうに。医師の私が、診断書を用意して差し上げるわ」
その場にいた数名が、ざわっとした空気を纏いながら、こちらに視線を向けている。
その中で、急に顔色が変わったのは──チャラ男の方だった。
「えっ……、パパ。この人が西園寺社長で、こっちが……、婚約者?」
彼が私を指差した瞬間──私は本気で嫌悪感に襲われた。
ぞっとする。
なんで、こんな人に“指を指される”なんて屈辱を受けなきゃいけないの?
「お前、失礼だぞ! 指をやめろ!」
葛野社長が顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけ、ペコペコと頭を下げて、酔っ払った息子を無理やり引きずっていった。
ああ、終わった。
あの親子の“崩壊”を、私は目の前で見届けた。
きっと、この出来事で取引の話も白紙になる。
けれど私はもう、どうでもよかった。
怖くて、悔しくて、恥ずかしくて、何も言えなかった自分に苛立っていたけれど。
それでも、私のそばには雅さんがいてくれた。
スイートルームに戻る間も、雅さんは何度も私を見ては、申し訳なさそうな顔をしていた。
「あのね、すごく嬉しかったの。雅さんが助けに来てくれて……、ありがとう。それと……、肝心な時に動けなくなっちゃって、ごめんなさい」
助けてくれた雅さんの手が、私の手をぎゅっと握ってくれた。
ああ、大丈夫。
ちゃんと、私はここにいる。
彼と、今ここに。