The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
『シュレディンガーの猫』の拠点に着くなり、私は味方に拘束された。

これは分かっていたことだ。

ルレイアと別れてすぐ、私は本部にメールを入れた。

スパイであることがばれた。話があるから今すぐ戻る、と。

前半の文章だけで、私は充分処刑されるに値する。

それなのによくもまぁ、のこのこと帰ってきたものだ。

そう思われているのが手に取るように分かった。

私は抵抗しなかった。腕を縛られ、無理矢理総帥の前に連れていかれた。

ビルの最上階、重厚な扉を開けた先に、総帥が待っていた。

彼の姿を見るなり、私は身体が震えた。

私がこの部屋から生きて出られるか、それとも死体となって運び出されるかは、全てこの人に懸かっているのだ。

「…よくも、また俺の前に姿を現せたことだな、カセイ」

冷たい刃のような声で名前を呼ばれ、私は竦み上がった。

カセイ。そう、それが私の本名だった。

ルレイアに名乗ったハーリアというのは、咄嗟に思い付いた偽名に過ぎない。

カセイ・リーシュエンタール。総帥が私に与えた名前だ。

「しかも、話がある、と?言い訳をしたいなら聞いてやろう」

「…はい。ありがとうございます」

私は手を縛られたまま、総帥の前に跪いた。

私が一言、間違ったことを言えば…次の瞬間、私は死んでいるだろう。

唇を舐めて、深々と頭を垂れた。

「…申し訳ありません。私が『猫』のスパイであることが露見しました」

「正解だ」

総帥は尊大にそう言って、足を組み直した。

「何をおいてもまず謝罪。先に謝らなければ、今すぐ殺していた」

「…」

背中に冷たい汗が流れた。少しでも誤れば、私は死ぬ。

「で?誰にばれた。帝国騎士団か?」

「…いいえ。『青薔薇連合会』です」

「…」

総帥は考えるように黙り込んだ。

総帥の邪魔をしてはならないと、私も口をつぐんだのだが。

「…続けろ」

「…はい。『青薔薇連合会』の幹部が、私と同じようにランドエルス騎士官学校に潜り込んでいたようで…。私が潜入していることを、『青薔薇連合会』は事前に掴んでいたようです」

「そんなことはどうでも良い。何故露見した?お前は何を下手を打ったんだ」

「…何も」

私は唇を噛んだ。こればかりは、言い訳のしようもなかった。

「…何もしていないのに、ばれたと言うのか?」

「はい。『連合会』の幹部が言うには…私を一目見て、すぐに同業者だと分かったと…。本当か嘘かは、分かりませんが…」

「…」

総帥は何も言わなかった。沈黙が怖くて、私は恐る恐る、目線を上に上げた。

すると驚いたことに、総帥は高らかに笑い始めた。

「これは傑作だ。何もしてないのにばれた。これじゃうかうか外も歩けないな。奴とすれ違っただけでマフィアだとばれるってことか。さすが『青薔薇連合会』。化け物相手なら仕方ないな」

「…」

「それで?その幹部とやらはどうした?殺したのか?」

その質問をされたとき、私は恐ろしさに心臓が縮み上がった。

「…いえ。殺せませんでした」

「…」

今度こそ、私は殺されるのではないか、と思った。
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