【完結】年の差十五の旦那様Ⅱ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
 そう思って、私は小さな鞄に貴重品だけを詰め込んで、アパートを飛び出した。行き先なんて、考えていない。幸いにも隠し持っていたお金があるので、これで何処か遠くに行ってしまおう。……普段は、働いてもお父様とお母様にすべて奪われてしまうから、こんなにもお金があったのは奇跡に近い。

「……何処に、行こう」

 街を呆然と歩きながら、私はそう零す。これだけのお金があれば、かなり遠くまで行けるはず。金貨が十枚近くあるのだもの。多分――辺境にだって、行ける。

「……リスター、伯爵家」

 辻馬車の乗り場について、私はそんな言葉を零す。リスター伯爵家は、ウィリス王国の辺境にある伯爵家の一つで、裕福な家系。そして、何よりも――そこには、お義姉様がいる。お義姉様が、嫁いだおうちだもの。

 そう思ったら、私が行く場所は決まった。辻馬車の御者に持ち金のいくつかを渡して、リスター伯爵領に行けるかどうかを聞く。御者は私の切羽詰まった表情を見て驚いたものの、すぐに「足りるよ」と言って馬車を走らせてくれた。

(……お義姉様)

 ぎゅっとハンカチを握りしめて、私は流れる外の景色を見る。

 このハンカチは、侯爵令嬢だった頃に持っていたもの。お義姉様が、お屋敷に置いていったもの。お義姉様が嫁いだ後、私はこのハンカチをこっそりとお守り代わりに持っていた。こんなこと、お父様やお母様に知られるわけにはいかない。だから、お義姉様のものは私のもの。そんな傲慢な発言をして、誤魔化していた。

 何日も何日も馬車を走らせてもらって、徐々に景色は自然が豊かなものに変わっていく。その景色を眺めながら、私は「追い出されるかもしれない」と思っていた。お義姉様は私のことを嫌っているはずだから。ならば、お義姉様は私の顔なんて見たくもないと思う。だから、追い出されてしまう可能性はゼロじゃない。……それに、リスター伯爵はお義姉様のことを心の底から愛していらっしゃるのだもの。お義姉様が会いたくないと言えば、追い出すのは間違いない。

「私、もう、一人は嫌だよ……」

 侯爵令嬢だった頃から、ずっと孤独だった。それでも、見栄で着飾って恵まれている自分を演じた。そうすれば、お父様やお母様に愛してもらえるから。そう、思っていた。……あのお二人は、結局私のことを道具としか見ていなかったのに。それに、気が付けなかった。いや、心のどこかでは気が付いていた。それでも、気が付かないフリをした。
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