裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
「……不様にボロ雑巾のごとく切り裂かれたくせに、よく見ていらっしゃいますね」
ふふっと応戦するように笑ったパトリシアは掴まれているグレイの手に自身の手を重ね、手首からそっと剥がすとそのままグレイの手を自身の頬に当てる。
「その要求は棄却いたします」
黙ったまま何故、と尋ねるその目を真っ直ぐ見つめ、パトリシアは言葉を紡ぐ。
「私にかけられた制約は契約遵守。破ればペナルティを受けます。ゆえに契約の執行はそれがどんな内容であろうとも私にとって最優先事項なのです」
「最優先事項? 絶対、ではなく?」
問われたパトリシアはフルフルと首を振り、
「この世界はとても退屈、だったのです。他者を問答無用で蹂躙できるほどの力を有し長い時間を生きてきた私にとっては」
そう告げる。
パトリシアにとって契約遵守は制約を破った事によるペナルティを受けないためのものではなく、ただ単純に退屈な毎日にスリルをもたらすために設けたものでしかなかった。
だから、自ら上げたハードルで制約のペナルティを受けてもそれならそれで構わなかった。
けれど、今は違う。
「それを除いても私はあなたを殺したくありません」
パトリシアは今までのグレイの行動と先程なんでもする、といった彼の決意を思い出す。
その言葉に偽りはなく、本当にグレイはなんでも差し出すだろう。
パトリシアが傲慢に対抗するために必要だといえば、その命さえも。
今まで多くの命を刈り取ってきたし、沢山の命を見送ってきた。
それはパトリシアにとって当たり前の日常で、そこに躊躇いなどなかった。
そんなパトリシアが自分の力を削り直接干渉してまで誰か助けたのは初めてのことだった。
なぜ、そうしようと思ったのかパトリシア自身にも分からない。
この不可解な選択をさせたこの気持ちをヒトは何と呼ぶのだろう。
そんなことを考えていたパトリシアの耳が、
「なら、そうならないようにすればいい」
勝手に殺すな、と呆れたようなグレイの声を拾う。
「アイツをぶっ飛ばして全部取り返す」
単純な話だろう、とさも当然のように言い切ったグレイを見ながらパトリシアはパチッパチッと空色の瞳を瞬かせる。
グレイのその目は何一つ諦めていなかった。
「ふふっ、なんて"強欲"な」
そうだった、とパトリシアは今更ながら思い出す。
悪魔であるパトリシアにとって、人間なんて片手で消し去れるほどか弱い存在だというのに、その内は悪魔に劣らず"傲慢"で"強欲"。そして、悪魔にはない熱意を秘めている。
覚悟を決めた人間が何かを成し遂げようとする時、それは予測をはるかに超えた結果をもたらす事がある。
『だからね、それをヒトは』
奇跡、と呼ぶのだとかつて親友が言っていた。
そして、彼女は成し遂げた。自分のために異界と現世を分けるなんて荒技を、悪魔と魔王を利用して。
パトリシアは真っ直ぐとシーブルーの瞳を映す。
クロアの魂を持つ、ユズリハと同じ色の瞳。
もしかしたら、と奇跡とやらを信じてみたくなる。
「そうですわね。私、縛りプレイが好きなんです」
ハードルが高ければ高いほど燃えますね、と笑ったパトリシアは、
「反撃開始といたしましょうか。旦那さま」
とても楽しげにそう宣言した。
ふふっと応戦するように笑ったパトリシアは掴まれているグレイの手に自身の手を重ね、手首からそっと剥がすとそのままグレイの手を自身の頬に当てる。
「その要求は棄却いたします」
黙ったまま何故、と尋ねるその目を真っ直ぐ見つめ、パトリシアは言葉を紡ぐ。
「私にかけられた制約は契約遵守。破ればペナルティを受けます。ゆえに契約の執行はそれがどんな内容であろうとも私にとって最優先事項なのです」
「最優先事項? 絶対、ではなく?」
問われたパトリシアはフルフルと首を振り、
「この世界はとても退屈、だったのです。他者を問答無用で蹂躙できるほどの力を有し長い時間を生きてきた私にとっては」
そう告げる。
パトリシアにとって契約遵守は制約を破った事によるペナルティを受けないためのものではなく、ただ単純に退屈な毎日にスリルをもたらすために設けたものでしかなかった。
だから、自ら上げたハードルで制約のペナルティを受けてもそれならそれで構わなかった。
けれど、今は違う。
「それを除いても私はあなたを殺したくありません」
パトリシアは今までのグレイの行動と先程なんでもする、といった彼の決意を思い出す。
その言葉に偽りはなく、本当にグレイはなんでも差し出すだろう。
パトリシアが傲慢に対抗するために必要だといえば、その命さえも。
今まで多くの命を刈り取ってきたし、沢山の命を見送ってきた。
それはパトリシアにとって当たり前の日常で、そこに躊躇いなどなかった。
そんなパトリシアが自分の力を削り直接干渉してまで誰か助けたのは初めてのことだった。
なぜ、そうしようと思ったのかパトリシア自身にも分からない。
この不可解な選択をさせたこの気持ちをヒトは何と呼ぶのだろう。
そんなことを考えていたパトリシアの耳が、
「なら、そうならないようにすればいい」
勝手に殺すな、と呆れたようなグレイの声を拾う。
「アイツをぶっ飛ばして全部取り返す」
単純な話だろう、とさも当然のように言い切ったグレイを見ながらパトリシアはパチッパチッと空色の瞳を瞬かせる。
グレイのその目は何一つ諦めていなかった。
「ふふっ、なんて"強欲"な」
そうだった、とパトリシアは今更ながら思い出す。
悪魔であるパトリシアにとって、人間なんて片手で消し去れるほどか弱い存在だというのに、その内は悪魔に劣らず"傲慢"で"強欲"。そして、悪魔にはない熱意を秘めている。
覚悟を決めた人間が何かを成し遂げようとする時、それは予測をはるかに超えた結果をもたらす事がある。
『だからね、それをヒトは』
奇跡、と呼ぶのだとかつて親友が言っていた。
そして、彼女は成し遂げた。自分のために異界と現世を分けるなんて荒技を、悪魔と魔王を利用して。
パトリシアは真っ直ぐとシーブルーの瞳を映す。
クロアの魂を持つ、ユズリハと同じ色の瞳。
もしかしたら、と奇跡とやらを信じてみたくなる。
「そうですわね。私、縛りプレイが好きなんです」
ハードルが高ければ高いほど燃えますね、と笑ったパトリシアは、
「反撃開始といたしましょうか。旦那さま」
とても楽しげにそう宣言した。