虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
「うう……頭痛い……」
あれから一睡もできずに朝を迎えた。
当然だ。覚悟してはいたけれど、死は怖い。悠長に眠れるはずがなかった。
「そうだ……、朝食の支度をしなくては……」
私は適当に身支度を整え、部屋を出る。しかしそこで困り果ててしまった。
あれ? そういえば厨房はどこにあるのかしら……?
昨日はリビアが部屋にご飯を運んでくれたため、どこで作っているのかわからない。
辺りをきょろきょろ見回していると、そこにちょうどリビアがやってきた。
「クラリス様! もうお目覚めでしたか! 遅くなってすみません!」
「あ、いえ……」
慌ててこちらにやってくるリビアに、重い頭を抑えながら私は問い掛けた。
「あの、厨房はどこにあるのでしょうか? 朝の支度をしなくては……」
私の言葉に、きょとんと可愛らしいお顔を傾げるリビア。それからすぐに笑顔になる。
「クラリス様、何を仰っているのですか! そのようなことは私共の仕事です。クラリス様はゆっくりなさってくださいまし!」
「さあさあ!」と部屋に押し戻され、私はベッドに腰掛ける。
そうだった。私はもう、朝食の支度をすることはないのだった。アレスにいるときの癖でつい早起きをし、厨房に向かおうとしてしまった。今日殺されるかもしれないのに、なんて呑気なことだろうか。
寝不足とそれによる頭痛に加え、人生が今日で終わるかもしれないという恐怖から、上手く頭が回っていないようだった。
私の髪や服を整えてくれていたリビアが、私の顔を心配そうに覗き込む。
「クラリス様? 大丈夫ですか?」
「……?」
「少々顔色が悪いように思います。昨日の疲れがまだ取れていらっしゃらないのではないでしょうか?」
疲れが取れていないどころか、体調も悪ければ気分も最悪である。けれど。
「大丈夫です……、今日は、殿下とお約束がありますので……」
そう言うとリビアはにんまりと笑顔を浮かべる。
「そうでしたか! でしたら今日は特別可愛くして差し上げねば!」
リビアは腕を捲り、嬉々として私の化粧を始める。
「クラリス様はもともとかなり美人様でございますので、それほどいじる必要もございませんが、ちょっとだけお色入れますね。あと前髪が長めですので、横に分けてもいいかもしれません」
美人……? 私が……?
ぼーっとした頭の中、聞こえてきた単語に首を傾げる。
美人だなんて、リビアはとても優しい子だわ。
私が死ぬまでのほんの短い付き合いであるとしても、私の気分を上げるような優しい言葉ばかりをくれる。私が美人だなんて、そんなはずがあるわけないというのに。
「さ! 出来ましたよ!」
鏡に映る私は、私でないみたいに綺麗だった。こんなに素敵にしてもらったことは、人生で一度もない。
「ありがとう……ございます、……リビア」
私の言葉にリビアは嬉しそうに頬を緩める。
「とんでもないです! クラリス様は元々がお綺麗ですから!」
「でも本日は無理はなさらないでくださいよ! やっぱり顔色があまりよろしくはないですから」とリビアはお母さんのようなことを言った。
私は苦笑いを零しながらも、「わ、わかりました……」と返事をした。