【Guilty secret】
これで10年前の未解決事件の考察は終了だ。
『偶然、その日会社を休んだ晋一の情報は芽依からAに伝わり、Aはその日を犯行の決行日にした。服に返り血がつかないように凶器と一緒に雨ガッパも用意し、芽依はいつも使っている自分の雨ガッパを着た。あらかじめ芽依が鍵を開けておいた勝手口からAは侵入し、二人で犯行に及んだ』
早河はカーペットに残された子どもの血の手形の写真を見下ろす。
10年前の捜査本部の見解では、殺された両親に芽依が駆け寄った時に手に血が付着し、それが手形となって残ったと判断された。しかし今の仮説だと血の手形の意味も異なってくる。
「芽依が殺したんでしょうか……」
重苦しい空気に真紀の溜息が漏れた。矢野も無言でマジックの蓋を閉めてホワイトボードの下に置く。
『芽依が殺したのかもしれないし、Aと二人で殺ったのかもしれない。ただの仮説だ。仮説を裏付ける物証はない』
捜査資料を閉じて早河は立ち上がった。沈んだ空気の入れ換えをするために窓を少し開けて、外の空気を室内に流す。
「物証はカーペットに残っていたAB型の毛髪ですね。毛髪の持ち主が美大生Aだとすれば、芽依の周りで遺留物の毛髪とDNAが一致する人間がいれば、決定的な物証になります」
『問題は美大生Aをどうやって見つけるかだ。芽依に聞いても話さないとなると……』
10月の穏やかな風が早河の顔に当たる。娘の真愛が生まれた3月の頃がつい昨日のように感じられるが、もう季節は秋だ。
あと2ヶ月もすれば今年が終わる。
人間の成長は遅くて速い。人間だけが大人になるのに時間がかかる。
成人式を済ませて社会人となり、カテゴリーとして大人と認められる人生の節目を迎えても、それで大人になるとは限らない。
身体は大人でも精神が未熟な大人も多い。
成長が目に見えてわかる存在は子どもだけ。
子どもの成長は速い。昨日できなかったことが今日はできるようになっていたり、髪も歯も手足の大きさも昨日と同じことはなく成長している。
その成長を少しも見逃したくないと早河は思う。
子どもが“子ども”でいてくれる時期はほんのわずか。親が“親”として子どもの世話を焼ける時期もわずかだ。
子どもは産んで終わりではない。親には必ず育てる責任が伴う。
永遠には続かない限られた時間に、できるだけ子どもと一緒にいてやりたい。
『親って言うものは、子どもが産まれたから無条件に“親”になれるものでもないな。毎日成長する子どもと一緒に親も毎日成長する。親は子どもを育てているつもりでも、実は子どもに“親”として育ててもらっているのかもしれない』
早河の独り言はこれから親になる真紀と矢野の心に重く響いていた。
『偶然、その日会社を休んだ晋一の情報は芽依からAに伝わり、Aはその日を犯行の決行日にした。服に返り血がつかないように凶器と一緒に雨ガッパも用意し、芽依はいつも使っている自分の雨ガッパを着た。あらかじめ芽依が鍵を開けておいた勝手口からAは侵入し、二人で犯行に及んだ』
早河はカーペットに残された子どもの血の手形の写真を見下ろす。
10年前の捜査本部の見解では、殺された両親に芽依が駆け寄った時に手に血が付着し、それが手形となって残ったと判断された。しかし今の仮説だと血の手形の意味も異なってくる。
「芽依が殺したんでしょうか……」
重苦しい空気に真紀の溜息が漏れた。矢野も無言でマジックの蓋を閉めてホワイトボードの下に置く。
『芽依が殺したのかもしれないし、Aと二人で殺ったのかもしれない。ただの仮説だ。仮説を裏付ける物証はない』
捜査資料を閉じて早河は立ち上がった。沈んだ空気の入れ換えをするために窓を少し開けて、外の空気を室内に流す。
「物証はカーペットに残っていたAB型の毛髪ですね。毛髪の持ち主が美大生Aだとすれば、芽依の周りで遺留物の毛髪とDNAが一致する人間がいれば、決定的な物証になります」
『問題は美大生Aをどうやって見つけるかだ。芽依に聞いても話さないとなると……』
10月の穏やかな風が早河の顔に当たる。娘の真愛が生まれた3月の頃がつい昨日のように感じられるが、もう季節は秋だ。
あと2ヶ月もすれば今年が終わる。
人間の成長は遅くて速い。人間だけが大人になるのに時間がかかる。
成人式を済ませて社会人となり、カテゴリーとして大人と認められる人生の節目を迎えても、それで大人になるとは限らない。
身体は大人でも精神が未熟な大人も多い。
成長が目に見えてわかる存在は子どもだけ。
子どもの成長は速い。昨日できなかったことが今日はできるようになっていたり、髪も歯も手足の大きさも昨日と同じことはなく成長している。
その成長を少しも見逃したくないと早河は思う。
子どもが“子ども”でいてくれる時期はほんのわずか。親が“親”として子どもの世話を焼ける時期もわずかだ。
子どもは産んで終わりではない。親には必ず育てる責任が伴う。
永遠には続かない限られた時間に、できるだけ子どもと一緒にいてやりたい。
『親って言うものは、子どもが産まれたから無条件に“親”になれるものでもないな。毎日成長する子どもと一緒に親も毎日成長する。親は子どもを育てているつもりでも、実は子どもに“親”として育ててもらっているのかもしれない』
早河の独り言はこれから親になる真紀と矢野の心に重く響いていた。