【Guilty secret】
『芽依は両親からの愛情を充分に感じられずに10歳まで育つ。そのくせ教育熱心な母親に言われるがまま塾を掛け持ちさせられ、近所では礼儀正しく勤勉な振る舞いを心がけ、良い子だと評判だった。……小山、お前が芽依の立場ならこんな小学生時代どう思う?』

早河に聞かれて真紀はかぶりを振る。

「嫌ですね。勉強ばかりで、家に帰っても親に無視されて愛されない。外では礼儀正しい良い子を演じなければ、きっと聡子に怒られたでしょう。小学生の時にそんな毎日だったら私なら息が詰まります」
『だよな。毎日が生き地獄だ。そんな地獄の日々で小学3年の秋に芽依はある人物と出会う。あくまでも仮説だが、市内の美大に通う大学生Aだ』

 捜査資料や住民の証言だけでは見えなかった、10歳の佐久間芽依の本当の姿を早河は探る。矢野がホワイトボードに美大生Aと書いた。

『芽依は10歳、Aは成人男性と仮定する。二人の年齢差は10歳はあるが、二人は何らかの理由で出会い、心を通わせた。年齢を越えた友人なのか友人以上の何かが二人にあったのかは想像もできないが、芽依はAに絵を教わり、楽しい時間を過ごしていた。Aと過ごす時間が芽依にとって唯一の安らげる時間だった』

 美大生Aと芽依が線で結ばれ、その線には友情? と記された。この仮説では美大生Aが佐久間夫妻を殺害した犯人である。

『芽依は本当の顔をAにだけ見せていた。親の愛情の代わりにAからは愛情を感じていたのかもな。Aも芽依を大切にしていた。そしてAは芽依がネグレクトされていることを知る。そこでAは何をしたか?』

 早河の仮説も終盤だ。真紀と矢野もホワイトボードを見つめた。

 子どもが産まれると、育児をする親は自分のために使える時間が減る。これまで当たり前にできていたこともできなくなり、許されなくなる。

子ども>自分になる生活を苦に思わない親もいれば、想像よりも大変な育児にうつ病になるケースもある。

たとえばそこに、パートナーや周囲の協力があったとしても急に襲われる心の闇。
“親だから当たり前” すべてその一言で片付けられてしまうけれど、自分以外の他人をゼロの状態から育てる行為は並大抵のことではない。

 産後鬱も育児放棄も誰も責められない。でも子どもは親の愛を欲している。
ある時期を過ぎれば子どもは親がいなくても勝手に育つ。それでも、いつまでも親の愛を欲している。

『芽依を解放するために、Aは芽依の両親の殺害を決めた。芽依もAの提案を受け入れた……これについては殺人をどちらが提案したかは不明だな。酷なケースだが、芽依が両親を殺すと言い出してAが了承したかもしれない。どちらでも共犯関係を結んだ事実に変わりはない』

 早河の仮説を聞いた矢野がホワイトボードの美大生Aと芽依を赤丸で囲み、佐久間夫妻に向けて→殺害と書いた。
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