【Guilty secret】
「赤木奏……のらりくらりとかわしやがって」

 三軒茶屋二丁目の住宅街を歩きながら舌打ちした沙耶の背後に二人組の男が近づいてくる。

『おねぇーさん。機嫌悪いところごめんね。ちょっといいかな?』
「はぁ?」

 振り向くと二人の男が沙耶の後方に立っていた。ひとりは派手なペイズリー柄のシャツの上にジャケットを羽織った男。シャツの胸元にはサングラス、一見するとチンピラの風体だが、妙に清潔感がある。

もうひとりは緩めたネクタイをしたスーツの男。サラリーマンには見えず、ヤクザにも見えない。服装だけではどんな職業かわからない奇妙な雰囲気の男だった。

『私はこういう者です』

 職業不詳の男が名刺を差し出す。躊躇いがちに受け取った名刺の名前を彼女は音読した。

「早河探偵事務所、所長……早河仁? ……探偵?」
『と、助手の矢野でーす。よろしくね』

助手と主張した派手な柄シャツの男は軽いノリで挨拶だけして名刺は出さなかった。どうにも信用ならない二人組を、沙耶は不審な眼差しで睨んだ。

「探偵さんが私に何の用ですか?」
『さっきあそこのビルから出て来たよね。デザイン事務所Fireworks』

矢野がFireworksがあるビルの方向を指差した。ここからでも見えるFireworksの建物には夕陽が反射している。

「それが何?」
『君が追っている10年前の未解決殺人事件を俺達も調べている』
「どうして私が10年前の事件を追ってることをあなた達が知ってるの?」

 未解決事件特集はまだ企画段階だった。当然、社外の人間が知り得るはずない。
早河はそれについては語らず、話を先に進める。

『単刀直入に言おう。俺達は君が掴んでいる情報が欲しい。俺達は佐久間社長夫妻を殺した犯人に関してある仮説を立てた。君が持つ情報によっては、仮説を成立させる最後のピースが見つかるかもしれない』

佐久間夫妻殺害の犯人の仮説に沙耶は興味を惹かれた。早河、矢野、沙耶の三人は住宅街からさらに人のいない細い道に入る。

夕陽の届かない日陰の道は肌寒かった。

「あなた達が考えた仮説とは?」
『それを話す前に確認したい。君はこの事件を記事にするのか?』
「記事には……出来なくなりました。諸事情で未解決事件の特集企画は取り止めになったんです」

 彼女はジャケットのポケットに忍ばせていたICレコーダーを二人に見せる。
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