エンドロールを巻き戻せ
 シャワーを浴びて、鏡で自分の顔を見る。
目が真っ赤に腫れている。自分でも『なんて酷い顔なんだろう』と思う。
けれどシャワーを浴びて、顔を洗ったらなんだかすっきりしてきた。
気持ちまでも、少しだけ晴れたような気がする。

 バスルームから出ると、香奈がウーバーで頼んだスープを飲んでいた。
部屋にトマトの良い香りが漂っている。

「瑞稀、あがったの?スープきてるよ。瑞稀の分も頼んでたからね、ほらほら少しでも飲みなよ。ここのスープはめちゃうまだから!」

 私は、少し食べたい意欲がわいてきて、瑞稀から受け取ったスープを一口飲む。
そういえば、代官山で食べたディナー以来の食事だった。
温かいスープが胸の中で広がって、私はなんだか少しだけ幸せな気持ちになる。

 スープを飲んでいる、私を見て香奈が嬉しそうに笑っている。
香奈がいてくれて良かったと私は思う。
香奈がいなければ、今も私はベッドの中で廃人のように泣いていただけだろう。

「ねぇ香奈、本当にいつか私は一彩を忘れて新しい恋愛をするのかな、、、。」

「するよ。さっきから言ってるじゃん。時間薬だから、時間がたてば忘れる。
今は何も考えずただ、たんたんと毎日を送っていればいいんだよ。そのうち元気も出てくるって!」

 時間薬かあ、、、。
私は素早く効く特効薬が欲しいんだけど。

「香奈、私忘れたくないんだよ。
一彩との事。付き合ってから今日までの事、全部ずっと忘れないでいたいんだよ。
一彩は、私以外のどんな子を好きになったんだろう、、、。」

 私がそう言うと、香奈が私に向かって厳しい顔をして言ってくる。

「ちょっと、瑞稀。あんたもしかして、一彩の新しい彼女になるであろう人を、詮索するつもりじゃないでしょうね。」

「だって気になるよ。一彩がどんな子を好きになって、なんで私はその子に負けたのか。」

「勝ち負けじゃないでしょ?瑞稀。辞めときな、そんな事しても良い事一つもないよ。
恋愛に執着したら不幸になるだけだよ。久しぶりに、一人になるのも悪くないよ。一人の人生を楽しめなかったら、二人の人生も楽しめないよ。」

 香奈の言う事は最もだと思う。私だってわかってる。一彩の好きな人を突き詰めたからと言って、余計に傷つくだけだと。
 それでも、私は願ってしまうのだ。
一彩が私以外の誰のものにもなって欲しくないって。
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