エンドロールを巻き戻せ
 私の前から歩いてきたのは、二週間ぶりに会う一彩だった。
私はあまりの偶然に息をのむ。
まさかこんな金曜日の人ごみの渋谷で、一彩と偶然会うなんて、、、。

しかし私は一彩の隣を見て愕然とする。
一彩は笑顔で誰かと話していた。
一彩の隣には綺麗な女の人がいた。
 
 スーツを綺麗に着こなした、長身の女の人だった。二人とも、一彩が働いている飲料水メーカーの紙袋を持っていたので、多分同じ会社なんだろう。

 私は瞬時に理解した。

一彩が好きな同じ会社の人はこの人なんだ、、、。

「瑞稀ちゃん?」

早見さんが私に話しかける。
その瞬間、私は一彩と目が合った気がした。
一彩の肩に、女の人が手を置いている。

私はその瞬間、気づいたら早見さんに「ごめんなさい!私帰ります!」と言って駆け出していた。

 一彩は、多分私に気がついたと思う。
けれど、私を追いかけてきたりはしなかった。
当然の事だと思う。元彼女より、今の好きな人を優先するのはあたりまえだ。
私はあれ以上、一彩が私以外の女の人といる所を見ていられなかった。

 私は一人で渋谷の街中をだいぶ走り、途中で疲れて、立ち止まる。呼吸が苦しい。涙が出てくる。

(あの女の人綺麗だったな)

 私は、一彩の隣にいた人を思い出す。
仕事がバリバリできそうな、かっこいい美人だった。

そっか、、、。
そっかあ、、、。

私とは全然違うタイプ。

一彩は、ああいう女の人が良かったんだ。

そりゃ、私と正反対だもん。

振られても仕方ないよね、、、。

 一彩との結婚に夢みているような、こんな私は全然一彩のタイプじゃなくなっていたんだね。
私は納得したはずなのに、どんどん涙が溢れてくる。
自分でも、どうにも出来ず涙が止められない。
なんだか、上手く息すら吸えなくなっていた。
一彩は一人で新しい人生を歩み出しているのに、私は一彩との過去にしがみついたままだ。

それがどうしょうもなく、寂しかった。

私は一人、脇目も振らず渋谷の街中で泣いていた。


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