恋は揺らめぎの間に
「おはよう。」
ぽんっと肩を叩かれ振り返ると、今日もお洒落な出で立ちの慶人君がいた。
「慶人君!」
「待たせてごめんね。 さっき教授に捕まっちゃって。」
大袈裟に溜め息をつきながら、隣に腰を下ろす慶人君。ここは大学内のカフェテリアの一角。春休みでお店は閉まっているものの、お喋りや勉強のために利用する生徒がちらほらいる。私もその一人で、開いていたパソコンをパタンと閉じた。
「課題、途中じゃなかった? 大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
心配しないでと笑う私に、申し訳ないとジュースとお菓子を差し出す慶人君。来る途中に、売店でわざわざ買ってきてくれたことに嬉しくなる。
私の好きなお菓子……。
慶人君はこういう細やかな気遣いもできるから、モテるんだろうなぁ。
私も旅行のお土産としてお菓子を持ってきていたことを思い出して渡す。
「これ、私からも。」
「え! ありがとう!」
本当に小さな、ちょっとしたお菓子なのに、とても喜んでくれる慶人君に胸がちくりと痛む。
旅行から帰って来て鉢合わせになったあの日。これからバイトだからと足早に慶人君が去ってしまったために、メッセージで話がしたいと来ていたけれど、ちゃんと話ができなかった。それを今から話さなければならないのだ。
「旅行はどうだった?」
頬杖をついて、こちらの顔を覗き込みながら、優しく微笑む慶人君。
「楽しかったよ。 修学旅行以来で。」
「静香ちゃんの中学は京都だったんだね。 いいなぁ。 僕は沖縄だったから。」
旅行の思い出を沢山聞いてくる慶人君。話していて楽しいのだけれど、慶人君が本当に聞きたい話題は別にあるはずなのに、どうして聞いてこないのだろう?それを話に来たのに、なんだか落ち着かない…。まるで悪いことをして怒られるのをびくびくしながら待っている子どものようだ。
「あの、慶人君。」
「なあに?」
私はごくりと息を飲む。ふう…っと息を吐いて呼吸を整え、慶人君を見る。
「旅行から帰ってきたあの時、私のこと待ってたって言ってたけれど、あのメッセージのことだよね?」
それまでニコニコと目を細めて笑っていた慶人君が、ゆっくり目を開いて、ちょっと怖いと思うくらい真剣な顔になっていった。