恋は揺らめぎの間に
「ごめんなさい…。 直接伝えるべきことを、あんなふうに言いっ放しで……。」
「…理由は聞いても?」
二人とも好きなこと。けれど、それぞれに抱く気持ちは別物であること。それに甲乙をつけることはできないこと。けれど、慎司君と離れることはできなかったこと。だから慶人君とは付き合えないこと。どれも正直に話した。
自分でも自分の気持ちをよくわからないのに、それを言葉にして伝えるのは難しかった。しかし、慶人君は最後まで話を聞いてくれた。けれども、理解できないとでも言いたげに、顔を顰める。
「牧瀬君に対する思いは、情とは違うの?」
「それは……」
言い淀んで、俯いていたおでこにチュッと唇が押し当てられる。
「っ!?」
おでこを押さえ、周囲の人に見られていないかと困惑する私の肩を掴んで、今度は唇に触れようとしてきた慶人君を慌てて手で押し返した。慶人君は、じーっと私を見つめ返してくる。
「嫌だった?」
「嫌じゃないけどっ…! でもっ…!」
「……こういう時は、嫌って言うんだよ。」
慶人君の身体がすっと離れ、私達の間にまだまだ冷たい風がひゅうっと流れ込んだ。
「そうじゃないと、諦めがつかないから。」
傷つけた。
慶人君はにっこりと笑みを浮かべていたが、それが作られたものであることは一目瞭然であった。