Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 試しにシュシュを鼻先に近づけてみると、感じていた生臭さが顕著になる。あからさまに眉をしかめた。

 何これ。なんでこんなに臭いの……?

 落として無くすまで自分が使っていたものだっただけに、何となく不快で、想乃は紙袋ごとシュシュをゴミ箱に捨てた。

 自分でまた新しいのを買おう。そう思い、不気味な紙袋については考えないことにした。

 郷が作ってくれたカレーライスを食べて入浴を済ませる。二階へ上がり自室のクローゼットを開けた。畳んだ洗濯物を引き出しの中に仕舞っているところでふと手が止まった。

 想乃の目が、隅に置かれた白い紙袋を見ていた。中には小さなトロフィーと額縁にはまった賞状が入っている。

 想乃が高校生のころにもらったものだ。学生音楽コンクールピアノ部門でありがたくも奨励賞を受賞した。ステージの上で緊張しながら受け取った感覚やあのときの拍手が記憶に蘇った。

 とはいえ過去の栄光だ。過ぎ去っていく今の生活を思うと、ピアノとはかけ離れた日々を送っている。

 明日の予定を確認してからベッドへ寝転んだ。

 不意に枕元に置いたスマホが小さな振動音を鳴らす。暗くなった室内をほのかに照らすそれに横目を向けて、想乃は中を確認した。思った通り、いつもの怪しいメールが届いていた。
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