Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 病院が経営効率を追い求め、厚生労働省が入院日数の短縮に向けて動けば動くほど、患者家族は転院先を求めてさまようことになる。それでは患者は救われない。自宅介護が関の山で患者や家族は、精神的にも肉体的にもすり減っていく。

 私がそうならないよう、慧弥さんがバックアップをしてくれたということ……?

 考えてから、いやいや、と即座に首を振った。それはさすがに自意識過剰というものだ。一瞬でもそう思ってしまった自分が恥ずかしくなる。

 別室で担当医の藤川から改めて説明を受けて、想乃は必要書類にサインをした。隣りに座ってともに話を聞いていた慧弥に名前を呼ばれる。

「今後の流れとしては。想乃のお母さんに専用の個室へ移ってもらってピアノを運び入れる。勿論、我が社が展開する新事業として行うから、費用の一切は会社負担となる。想乃の負担がこれ以上増えることはない」
「そんな大それたことを……慧弥さんの一存で?」

「まさか」と言って慧弥が手を振り、破顔する。

「会社にはずいぶん前から話を通してる。ちゃんと稟議書(りんぎしょ)も提出して許可を得てるよ」

 ふふっ、と得意そうに笑った慧弥が「これがふたつ目のお願いごと」と言った。

 ふたつ目のお願いごと。そう言われて気づくことがある。先週末、ピアノを買ってもらったときに言われたのだ。「時期がきたら言うね」と。先ほど、実施するにあたって想乃のピアノが必要だとも。
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