Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「お待たせしました」

 助手席に乗り込みシートベルトを締めた。「じゃあ動くね」と慧弥が言い、シフトレバーをドライブに入れる。

 駐車場を出てから数分後、想乃は「あ」と声を上げた。「どうかした?」と慧弥が尋ねる。

「どうしよう、忘れてました」
「なにを?」
「……慧弥さんのお義母さまの、穂花さんにだけ挨拶してません」

 想乃は不安そうに眉を寄せ、そっと慧弥を見た。彼は平然とした様子で運転に集中している。わずかに目を細め、呆れたように嘆息する。

「いいよ、気にしなくて」
「……でも」
「あの人と会話しなきゃと思うと……虫唾が走るんだよね」

 ……え。

 想乃は思わず目を疑った。慧弥の真顔が急に不快感で歪む。チッ、と舌打ちを漏らし、強い嫌悪を露わにした。

「悪いけど。正直名前も聞きたくないから、この話はこれで終わり」
「……あ。はい」

 豹変した慧弥の態度に驚き、想乃は思わず俯いた。こんなに怒った表情は初めて見る。

 ハァ、と隣から大きなため息が聞こえた。ちょうど交差点に差し掛かり、赤信号で停車する。
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