Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「想乃ちゃんのピアノ、最高だったわ。父も大喜びで……今日は本当にありがとう」
「いえ。黎奈さんのおかげですから」

 慧弥にとっても大正解の選曲だった。それもこれも、黎奈が楽譜を提供してくれたおかげだ。「素晴らしい演奏だったね」と夫の晴彦も褒めてくれた。

 ちょうどそのとき、高級感のある黒塗りのセダンが想乃たちの後ろを通り過ぎた。「あ」と黎奈と慧弥が反応する。慧弥はセダンの後部座席を見つめてパッと手を挙げ、黎奈と晴彦は軽く頭を下げた。

 想乃は走り去って行く高級車を見送りながら、何気なくナンバープレートに目を留める。『8686』という四桁を見て、清掃業者の名でもあった、ハローハローという語呂合わせを思いつく。

 ……あれ?

 不意に訪れる既視感。前にも似たような状況があった気がするが、いつのことだったか思い出せない。

「今のって……」

 ぽつりと呟くと、「あれは社の車なの」と黎奈が教えてくれる。

「父とお祖父さまが乗っていたのよ」
「そうだったんですね」

 知らなかったとはいえ、黎奈たちのように頭を下げればよかったと少しだけ後悔する。

「ところで想乃ちゃん、みんなにちゃんと挨拶できた?」

 黎奈に尋ねられ「はい」と頷く。微笑む彼女と別れの挨拶を交わし、想乃は慧弥のSUVへと戻った。
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