Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 ふと顔を上げると、水沢がどこかわけ知り顔で微笑んでいた。

「慧弥から依頼を受けてたでしょ? 偽装婚約の」

 想乃は大きく目を見張り、ぽかんと口を開けた。

「えっ、知ってたんですか?」
「ああ。慧弥がきみに関わる前に知らされた。俺に協力してほしいって頼む前提で」
「……そうなんですね」

 契約書の内容では、お互いに第三者に漏らさないことと書いてあったのに。

 契約を結ぶ前に話したようなので、おそらくは違反にはならないと考えたのだろう。

 想乃は慧弥の用意周到さと狡猾さを思い、呆れたようにため息をついた。

「いつだったかな……クリスマス以前に……、電話で相談されたよ。浅倉さんを本気で好きになったって」

 そんなに前から……?

 想乃は驚き、目を丸くする。

 十二月下旬、クリスマスデートで見た慧弥の雰囲気や、年末年始の長期休暇で手料理を作ってほしいと言った彼を思い出し、胸の内側がじんわりと熱くなった。

 ただ謎でしかなかった慧弥の行動は、恋愛感情からくるアプローチだったのだ。

「初めてなんだよな、あんな慧弥」
「……初めて?」
「……事件のことは、きみにとって辛いことだったと思うけど。慧弥の焦りようが半端なくて。心配でたまらないって顔で、泣きそうになってたよ」

 あの日、ホテルに駆けつけた慧弥が脳裏に浮かんだ。目を赤くし、動揺する様子がありありと伝わった。
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