Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
『では、僕からひとつだけ、いいですか?』
「……ええ」
『先ほど想乃さんが、Xの正体を塚口と口にしていましたが。塚口竜成ですか? 情報システム部課長の』

 想乃はハッと息をのむ。郷の問いかけに、即座に「そうです」と答えた。

「塚口さんは、慧弥さんのことを敵視しています。先日、コンサートホールでばったり会ったとき、そう感じたの……何か、慧弥さんが困る事態にならないか。不安で」

 胸の奥に生まれた不安を振り払うように、想乃は片手をぎゅっと握りしめた。

 Xの正体については、これまで何度も『言えない』と繰り返されてきた。今になって、あっさりと塚口の名が挙がるとも思えない。

 それでも——彼と会ったときに感じた、あの冷たい視線だけは無視できなかった。

 慧弥が背を向けた途端に向けられた、あの敵意。もし、あれが彼の本心なのだとしたら。

 想乃は緊張しながらミライの返答を待った。

『Xの正体は塚口ではありません。彼は数年前、不慮の事故で命を落としています』
「え……」

 想乃は思わず息をのんだ。

『これに関しては、あなた方には何の関係もありません。ただの事故です』

 郷の言葉は淡々としていた。だが、その静けさがかえって不気味な余韻を残す。
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