Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
終章 Deception


 ◇三十年後の未来、また別の世界線——

 ***

 ——扉が静かに開いた。

 冷たく管理された空気が、微かに消毒液の香りを漂わせる。

 二人の男が無機質な一室に足を踏み入れた。

 一人は浅倉郷。過去の世界線では中学生だったが、こちらでは三十年の歳月を経て、研究者としての顔を持つ。

 鋭い眼差しと引き締まった顔つきが、彼の経験の重さを物語っている。

 そしてもう一人。並樹(かける)——想乃と慧弥の間に生まれた命だ。

 母親を知らずに育った彼は、今や二十代後半となり、端正な横顔には想乃の面影が宿っていた。



 ***

 二十七歳でこの世を去った姉に代わり、郷は彼女の子供を育て上げた。

 彼女の人生は、幾度となく不幸に見舞われた。

 生活苦のなか、入院していた母が亡くなり、その悲しみが癒えぬうちに、郷のいじめ問題が深刻化した。

 郷は学校へ行くことが苦痛になり、不登校となったが、それに気づけなかった姉は自分を責めた。

 それでも、わずかな希望は残されていた。

 アルバイト先のコンビニで、姉は慧弥と出会った。圧倒的な財力と包容力を持つ彼に見初められ、交際を始めると、金銭的な苦労は一切なくなった。慧弥の存在は、姉の心の支えでもあった。

 だが、その幸せは長くは続かなかった。
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