Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「結婚はしなかったよ。……想乃のことが、忘れられなかったからね」

 郷は驚き、言葉を失った。

 慧弥が、ずっと想乃を想い続けていた——。

 姉の死後に知った“事実”と、慧弥の言葉が、頭の中でゆっくりと重なった。

 その夜、郷は迷いながらも、想乃がインターネット上で生前つけていた日記を開いた。日記の存在やログインパスワードは姉が保管していたノートから知っていた。

 日記には、姉の苦しみが淡々と綴られていた。

 姉が生きていたころには知り得なかった、慧弥との別れの理由が——。


 慧弥の恋人であるがゆえに、姉は狙われたのだ。

 その日、慧弥の義母から「少し話がしたい」と呼び出された。場所は、格式ばったレストランでも、高級ホテルのラウンジでもなく、街角のこぢんまりとした喫茶店だった。

 義母はにこやかにコーヒーを勧めた。

 姉は義母の態度を警戒しながらも、コーヒーを飲んだ。

 そこで意識が途絶えた。

 目を覚ましたとき、見知らぬ天井が目に入った。ホテルの一室に連れ込まれ、そこから先の時間は地獄とも呼べるほどの苦痛に満ちていた。

 見知らぬ男への嫌悪と、自分に襲いかかる恐怖に支配されながら、必死に状況を整理しようとしたが、精神的な苦痛から現実を直視することができなかったそうだ。
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