Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 後になって、その部屋に監視カメラが設置されていたと知った。

 数日後、一本の電話が入った。

『別れろ』

 強要する男の声は冷たく、淡々としていた。

 最初は何のことか、姉は理解できなかった。ただ、次に送られてきた映像を目にした瞬間、すべてを悟った。

 自分が蹂躙される様子が、映像として残されていた。それどころか、事実とは違った形で編集もされていた。見るものの解釈によっては、想乃が慧弥を裏切り、浮気をしているようにしか見えない。

『並樹慧弥と別れなければ、これを世間に公表する』

 脅迫は簡潔で、逃げ場のないものだった。

 慧弥がどれほどの影響力を持つ人間か、姉は知っていた。もしこの映像が広まれば、彼の名誉は大きく傷つくだろう。

 それだけではない。ナミキホールディングスにも影響が及ぶかもしれない。そして何より、慧弥自身が“この事実”を知れば、必ず報復しようと動く。そうなれば、さらなる危険が生まれる。

 ——巻き込むわけにはいかない。

 姉は誰にも打ち明けることなく、慧弥との別れを選んだのだ。何もかも捨てるように、彼のもとを去るしか選択肢は残されていなかった。

 慧弥を守るため、そして自らの尊厳をこれ以上踏みにじられないために、姉は彼の前から消えるしかなかった。そして、別れた後に妊娠が発覚した。

 お腹の子が誰の子なのか、確かめる術もない。
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