Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 さてなにを弾こうかと考えて「あの」と呟いた。並樹とともに近くで見守ってくれている店員に「なにかリクエストとか」と声をかける。

 男性店員が首を傾げた。「その、お店の雰囲気とかもありますし」と続けると店員はにっこりと微笑んで「お好きな曲で大丈夫ですよ」と言ってくれた。

 するとそばに座っていたテーブル席の女性客が「あの、いいですか?」と遠慮がちに手を挙げた。「もし良ければ『アナ雪の曲』が聴きたいです」と言い想乃を見る。

『アナ雪の曲』。あの有名な映画に流れた歌だ。もちろん知っているし何度か弾いたこともある。

「わかりました。じゃあその曲を」

 想乃は深呼吸をひとつしてから、再度両手を鍵盤に載せた。

 丁寧に音を奏でる。しっとりとした前奏を指先で撫でる。AメロからBメロを弾きサビへ入った。最初のサビは控えめに。軽くて速いタッチを意識する。


 高音が跳ねる。音符が踊る。想乃の頭の中に五線譜が引かれて、色鮮やかな音の渦で埋め尽くされる。

 作中で流れる挿入歌のひとつであり主題歌でもある曲。想乃は心の中に浮かんだ歌詞を想いながら映画のワンシーンを思い浮かべた。
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