Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 舞台は真っ白い雪山。自分自身を隠して生きてきた雪の女王が決断するシーンでこの歌が流れる。ありのままの自分を肯定的に受け入れる。自信を取り戻し信念に基づいて行動する。お城を建てるシーンからは抑揚をつけて鍵盤を強くたたいた。

 困難が立ちはだかってもそこに立ち向かう勇気すら湧いてくる、そんな感動的な場面だ。

 想乃自身もとても好きな曲で好きな映画のひとつだった。過去、映画を観ながら歌を聴き、感情移入してつい泣いてしまったことも思い出す。

 あのころと今を比べるとカラー写真とモノクロ写真ほどの差があった。生活環境に流されて、自分自身が持つ個性を押し殺していた。自分は頑張らなければいけない。父が生きていたころ、母が幸せそうに笑っていたころ、何の不自由もなく好きにピアノを弾かせてくれたのだから、今は自分が頑張らなければいけない。

 生活の基盤を整えるだなんて、そうそう上手くはいかないけれど。弟の郷と生きていくために。母の回復を祈ってまた家へ帰って来てもらうために。私が稼がなければいけない。

 だから、これまでのようにピアノは弾けない。もうピアノを楽しむのは終わり。そう思っていた。

 両親の事故から一転して変わってしまったここ三ヶ月を思い、かすかに唇が震えた。
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