〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
豊島区の染井よしの桜の里公園は、名前の通り周囲を桜の木々が囲っている。見頃を過ぎて青葉が覗くソメイヨシノが冷たい雨に打たれていた。
公園の入り口には関係者以外立ち入り禁止の黄色いテープが張られ、レインコートを羽織った警官が野次馬を追い払う。巣鴨署の刑事の誘導で美夜と九条は死体発見場所の公衆トイレに向かった。
公衆トイレには扉が三つある。現場は男子トイレと女子トイレに挟まれた多目的トイレ。
死体が運び出された後のトイレの床には、白いタイルの表面や溝に生々しい血痕が残されている。
被害者は後頭部をスパナのような固い物で殴られた後、公衆トイレまで連れ込まれたと見られている。
巣鴨警察署の捜査員から受け取ったタブレット端末の情報を美夜と九条は閲覧する。表示された死体写真は、酷いものだった。
犯人は被害者の首を手で絞めて殺害後に服を脱がせ、裸にした被害者の腹部を十字に切り裂いている。
『手口が台東区と同じだ』
「模倣犯の線もあるけど、台東区の事件では十字型の切り裂きは報道には伏せてるからね」
『後頭部殴打で気絶させ、絞殺してからの腹部の十字傷。ここまでの一致なら模倣犯じゃねぇよ』
美夜は腹部の切り傷の写真を拡大した。十字の傷は横線は右脇腹から左脇腹へ、縦線は胸下から下腹部まで、一気に裂かれていた。
「切り口が前より大胆になってる。台東区の時は十字傷の周囲に小さな擦過傷があった。まだ犯行に躊躇いが見られたのよ。でも今回は容赦がない」
『ひとり殺して慣れたってことか?』
「慣れもあるし、被害者への強い殺意を感じる」
被害者は前田絵茉、二十歳の大学生。絵茉の自宅は公園の目と鼻の先にあり、帰宅途中に襲われたと考えられる。
絵茉の所持品の情報を得た時に、美夜と九条は台東区の殺人事件との関連を確信した。所持品にはデリヘルで使用する名刺が数枚、ブランド物の名刺入れに収まっていた。
台東区の被害者、初瀬明日美もデリヘルの仕事をしていた。絵茉も同様のようだ。
二人が巣鴨警察署に立ち寄った時、刑事課の応接室から絵茉の両親の怒鳴り声が聞こえた。
漏れ聞こえる声から内容を察すると、絵茉の両親は娘がデリヘルでバイトをしていた事実を知らなかった。
絵茉がそんなアルバイトをするはずない、娘のバイト先は渋谷の洋服屋だと聞いていた、ちゃんと調べろと父親が抗議している。
捜査を進めながら隣室の怒声に聞き耳を立てていた九条は、延々と続く支離滅裂な抗議に呆れていた。
生前の絵茉の行動を探る目的で彼女のスマートフォン内部のデータを調べていたが、デリヘル用とプライベート用の二つあるツイッターの発言からは、性に奔放だった絵茉の性格が窺える。
『娘の裏の顔を認めたくないのはわかるけどな。デリヘルのバイトは勤め先に確認済みの事実だ』
「子どもにだって多かれ少なかれ、親の知らない裏の顔はあるものだと思う。親の裏の顔だってそうよ」
親が認めたくなくても絵茉が性的サービスに従事していた事実は消えない。知らなかった娘の実態を突きつけられて動揺する気持ちはわからなくもないが、絵茉の両親の言い様は職業として認められている風俗業を忌み嫌う発言に思えた。
公園の入り口には関係者以外立ち入り禁止の黄色いテープが張られ、レインコートを羽織った警官が野次馬を追い払う。巣鴨署の刑事の誘導で美夜と九条は死体発見場所の公衆トイレに向かった。
公衆トイレには扉が三つある。現場は男子トイレと女子トイレに挟まれた多目的トイレ。
死体が運び出された後のトイレの床には、白いタイルの表面や溝に生々しい血痕が残されている。
被害者は後頭部をスパナのような固い物で殴られた後、公衆トイレまで連れ込まれたと見られている。
巣鴨警察署の捜査員から受け取ったタブレット端末の情報を美夜と九条は閲覧する。表示された死体写真は、酷いものだった。
犯人は被害者の首を手で絞めて殺害後に服を脱がせ、裸にした被害者の腹部を十字に切り裂いている。
『手口が台東区と同じだ』
「模倣犯の線もあるけど、台東区の事件では十字型の切り裂きは報道には伏せてるからね」
『後頭部殴打で気絶させ、絞殺してからの腹部の十字傷。ここまでの一致なら模倣犯じゃねぇよ』
美夜は腹部の切り傷の写真を拡大した。十字の傷は横線は右脇腹から左脇腹へ、縦線は胸下から下腹部まで、一気に裂かれていた。
「切り口が前より大胆になってる。台東区の時は十字傷の周囲に小さな擦過傷があった。まだ犯行に躊躇いが見られたのよ。でも今回は容赦がない」
『ひとり殺して慣れたってことか?』
「慣れもあるし、被害者への強い殺意を感じる」
被害者は前田絵茉、二十歳の大学生。絵茉の自宅は公園の目と鼻の先にあり、帰宅途中に襲われたと考えられる。
絵茉の所持品の情報を得た時に、美夜と九条は台東区の殺人事件との関連を確信した。所持品にはデリヘルで使用する名刺が数枚、ブランド物の名刺入れに収まっていた。
台東区の被害者、初瀬明日美もデリヘルの仕事をしていた。絵茉も同様のようだ。
二人が巣鴨警察署に立ち寄った時、刑事課の応接室から絵茉の両親の怒鳴り声が聞こえた。
漏れ聞こえる声から内容を察すると、絵茉の両親は娘がデリヘルでバイトをしていた事実を知らなかった。
絵茉がそんなアルバイトをするはずない、娘のバイト先は渋谷の洋服屋だと聞いていた、ちゃんと調べろと父親が抗議している。
捜査を進めながら隣室の怒声に聞き耳を立てていた九条は、延々と続く支離滅裂な抗議に呆れていた。
生前の絵茉の行動を探る目的で彼女のスマートフォン内部のデータを調べていたが、デリヘル用とプライベート用の二つあるツイッターの発言からは、性に奔放だった絵茉の性格が窺える。
『娘の裏の顔を認めたくないのはわかるけどな。デリヘルのバイトは勤め先に確認済みの事実だ』
「子どもにだって多かれ少なかれ、親の知らない裏の顔はあるものだと思う。親の裏の顔だってそうよ」
親が認めたくなくても絵茉が性的サービスに従事していた事実は消えない。知らなかった娘の実態を突きつけられて動揺する気持ちはわからなくもないが、絵茉の両親の言い様は職業として認められている風俗業を忌み嫌う発言に思えた。