〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
4月21日(Sat)
警視庁十階には生活安全部サイバー犯罪対策課が設置されている。部屋には無数のコンピューター機器が並び、サイバー犯罪に精通した捜査員達がデジタル世界でリアルタイムに起きている犯罪を取り締まっている。
捜査一課とは縁遠いこの部署を訪れた美夜の目的は無論、デリヘル嬢連続殺人の捜査。
犯人はなぜ彼女達の職業がデリバリーヘルスだと知り得たのか。被害者がピンポイント過ぎる。
それは捜査会議でもたびたび疑問視されていた。
ラブホテル街を歩いていた初瀬明日美も、ホテル街を歩いているだけでは職業まではわからない。
帰宅途中を襲われた前田絵茉と岡部千尋も、外見だけを見ればどこにでもいる大学生とOLだ。
犯人は事前にターゲットを物色していた可能性がある。明日美も絵茉も千尋も、犯人は彼女達の職業を知り得る立場にいた人間。
昨日は明日美達の所属先であるデリヘル店を回り、彼女達が接客をした過去3ヶ月分の顧客リストを入手した。
デリヘルの予約の主流は電話予約。デリヘルサイト内の予約フォームでネット予約ができる店も増えてはいるが、明日美達が所属する三つの店の予約方法は電話のみだ。
店側の顧客リストには利用者の携帯電話番号の情報が記録される。過去3ヶ月の明日美達の顧客リストの中に同一の電話番号を使っている人間をあぶり出せれば、犯人に繋がる道が見えると美夜は踏んだ。
サイバー犯罪対策課と科捜研が共同開発した最新の解析ソフトで番号の解析をしてもらえるよう、上野一課長に話を通してもらっている。
サイバー犯罪対策課所属の飯田陸人《いいだ りくと》は美夜から受け取ったUSBをパソコンに接続し、三つの店舗の顧客情報をソフトに取り込んでいた。
「解析にどれくらいかかりますか?」
『3ヶ月分だからねぇ、3分は待ってもらうかも』
「3分……意外と短いんですね」
『もっとかかると思ってた? 最新も最新のソフト。もっとデータ量が軽ければ、一瞬で終わっちゃうよ』
ニッと歯をみせて笑う彼は、子どものような男だ。
『実はこれを作ったのは俺達と科捜研だけじゃないんだよね』
「他に協力者が?」
『神田さんの班の主任は小山さんだっけ。小山さんの旦那さんのこと聞いてる?』
「小山主任とはプライベートな話はあまり……」
上司の小山真紀は刑事として尊敬に値する人物だ。新人の美夜や九条の意見にも耳を傾け、美夜達が動きやすいように根回しもしてくれる。
所轄の頃よりも仕事は格段にやり易くなった。
九条ともなんだかんだと小言を言い合いつつ、ようやくバディ結成から3週間を迎える。
『警視庁来て数週間じゃそうだよな。小山さんの旦那さんって、凄い人なんだよ。うちの部署か科捜研に入って欲しいくらい』
「主任の旦那さんも刑事なんですか?」
『いやいや、警察の人じゃないよ。でも小山主任と結婚する前から情報提供で捜査協力してもらってる人でさ。このソフトの開発にも関わってるんだ。今の警視庁には昔を知ってる人もずいぶん少なくなったからなぁ、昔話を語れる人がいなくて寂しいものだね』
飯田と雑談を交えている間に、三店舗分の情報を取り込んだ解析ソフトが共通の電話番号の割り出しに成功していた。時間にして本当に3分だ。
警視庁十階には生活安全部サイバー犯罪対策課が設置されている。部屋には無数のコンピューター機器が並び、サイバー犯罪に精通した捜査員達がデジタル世界でリアルタイムに起きている犯罪を取り締まっている。
捜査一課とは縁遠いこの部署を訪れた美夜の目的は無論、デリヘル嬢連続殺人の捜査。
犯人はなぜ彼女達の職業がデリバリーヘルスだと知り得たのか。被害者がピンポイント過ぎる。
それは捜査会議でもたびたび疑問視されていた。
ラブホテル街を歩いていた初瀬明日美も、ホテル街を歩いているだけでは職業まではわからない。
帰宅途中を襲われた前田絵茉と岡部千尋も、外見だけを見ればどこにでもいる大学生とOLだ。
犯人は事前にターゲットを物色していた可能性がある。明日美も絵茉も千尋も、犯人は彼女達の職業を知り得る立場にいた人間。
昨日は明日美達の所属先であるデリヘル店を回り、彼女達が接客をした過去3ヶ月分の顧客リストを入手した。
デリヘルの予約の主流は電話予約。デリヘルサイト内の予約フォームでネット予約ができる店も増えてはいるが、明日美達が所属する三つの店の予約方法は電話のみだ。
店側の顧客リストには利用者の携帯電話番号の情報が記録される。過去3ヶ月の明日美達の顧客リストの中に同一の電話番号を使っている人間をあぶり出せれば、犯人に繋がる道が見えると美夜は踏んだ。
サイバー犯罪対策課と科捜研が共同開発した最新の解析ソフトで番号の解析をしてもらえるよう、上野一課長に話を通してもらっている。
サイバー犯罪対策課所属の飯田陸人《いいだ りくと》は美夜から受け取ったUSBをパソコンに接続し、三つの店舗の顧客情報をソフトに取り込んでいた。
「解析にどれくらいかかりますか?」
『3ヶ月分だからねぇ、3分は待ってもらうかも』
「3分……意外と短いんですね」
『もっとかかると思ってた? 最新も最新のソフト。もっとデータ量が軽ければ、一瞬で終わっちゃうよ』
ニッと歯をみせて笑う彼は、子どものような男だ。
『実はこれを作ったのは俺達と科捜研だけじゃないんだよね』
「他に協力者が?」
『神田さんの班の主任は小山さんだっけ。小山さんの旦那さんのこと聞いてる?』
「小山主任とはプライベートな話はあまり……」
上司の小山真紀は刑事として尊敬に値する人物だ。新人の美夜や九条の意見にも耳を傾け、美夜達が動きやすいように根回しもしてくれる。
所轄の頃よりも仕事は格段にやり易くなった。
九条ともなんだかんだと小言を言い合いつつ、ようやくバディ結成から3週間を迎える。
『警視庁来て数週間じゃそうだよな。小山さんの旦那さんって、凄い人なんだよ。うちの部署か科捜研に入って欲しいくらい』
「主任の旦那さんも刑事なんですか?」
『いやいや、警察の人じゃないよ。でも小山主任と結婚する前から情報提供で捜査協力してもらってる人でさ。このソフトの開発にも関わってるんだ。今の警視庁には昔を知ってる人もずいぶん少なくなったからなぁ、昔話を語れる人がいなくて寂しいものだね』
飯田と雑談を交えている間に、三店舗分の情報を取り込んだ解析ソフトが共通の電話番号の割り出しに成功していた。時間にして本当に3分だ。